枕埼すやりは眠らなければならぬ。
Pawn
枕埼すやりは眠らなければならぬ。
枕埼すやりには三分以内にやらなければならないことがあった。そう、彼女は一刻も早く、可及的速やかに眠りに就かなければならなかった。
「遅刻する!間に合わない!」
時刻は待ち合わせ三分前。夢をつなげる新技術「シームレスドリーム」によって、人類は睡眠時間をも有効活用できるようになっていた。今日はこれから本命男子と決戦デート。アバターのおめかしは済んでいる。あとは眠るだけなのだ。しかし、このドキドキはいかんともしがたい。こんな状態で眠れるわけないだろうが!
「仕方ないね。協力してあげるよ、マイフレンド」
ルームシェアしている変態エンジニア遠吠わおんがベッドサイドのデバイスコンソールに触れる。
「さ、目を閉じて。古くから伝わる由緒正しきスクリプトを改良した特別製をブチ込んであげる。一瞬でトべるよ」
すやりは目を閉じる。ハックされた意識世界には晴れ渡る草原が映し出された。
「バッファローが1匹」
わおんの宣言とともに遠くから土煙と轟音が近付いてくる。
「待って待って待って!!!なに、バッファローってなに!?」
「牛だよ。牛。ほら、来るよ」
「怖い怖い怖い怖い!」
うっかり展開したプロテクト障壁はあっけなく砕かれ、私はあっけなく吹っ飛ばされる。
「バッファローが2匹」
元の景色。晴れ渡る草原。遠くから来るバッファローが2匹。
「増えてる!?」
驚いた隙に吹っ飛ばされる。
「バッファローが3匹」
リセット。私は右手を構えて厚めの障壁を多重展開。止まらない。
「バッファローが4匹」
両手を駆使して倍の数を展開。止まらない。
…
「バッファローが50匹」
大地を鳴動させながら、私の展開するあらゆる障壁、その全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ。おかげで私の意識エネルギーもすっからかん。青空高くに吹っ飛ばされて、私は意識を手放した。
「ジャスト三分。良い夢見ておいでよ、枕埼すやり」
そう、私の戦いはここからだ。今日こそ告る。必ず落とす。
枕埼すやりは眠らなければならぬ。 Pawn @miutea
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