ネリネ村
「アイリス様。私の名前は、コチョウと申します。けれど...その、名前では呼ばないでいただきたいのです。」
「え、なぜ?」
「昔から村の友達にからかわれてきたのです。変な名前だって。尊重や、お年寄りはお前のお母さんはとても良い名前をつけてくれたと言ってくださいますが、詳しくは教えてくれなくて。」
「えと、あなたのお母様は...」
「村を出てしまいました。父は死んでしまったのですが、村を訪れた貴族の方が母に一目惚れして、婚約を申し込んだのです。私の母もなぜか乗り気でした。」
「そう。ごめんなさいね。」
少し寂しそうな顔をするコチョウは、母親が恋しいのだろう。
「あ!着きましたよ。ネリネ村です!」
「わぁっ!」
小さな村だが、活気に溢れ、人々は笑っていた。
王宮にほとんど閉じ込められていた私には、初めて見る光景だった。
「今から村長様の元へお連れしますね♪」
腕を引かれて村に入っていくと、人々の視線が私に向けられた。
勝手に入るな、と怒鳴られるだろうか。それとも衛兵が出てきて私を捕まえるのだろうか。
「ちょっと待って、やっぱり...」
「ネリネ村へようこそ!」
「なんにもない小さな村だけど楽しんでおくれ。」
あれ?私、歓迎されている...?
「この村の住民は他の人間と違って警戒心がとても強いのです。それ故に、安全だと確信した相手は、精一杯歓迎するのです。」
着きましたよ、とコチョウが足を止めた。その先には、他の民家の倍くらいはある屋敷があった。
コンコンと扉を叩くと、扉の向こうからどうぞ、と聞こえた。
「村長様、失礼します。」
村長というのだから、強そうな、気位の高い男がいるのだろうかと身構えた。
扉の先には...
「よく来たのぉ。」
小さくて可愛らしいおじいさんが、ちょこんと座っていた。
「お、お初にお目にかかります。アイリス・オースティン・ウィリアムズと申します。この度は村に入れていただき、ありがとうございました。」
「よいよい。かしこまらんでええよ。身分はそちらの方が高いのだし。まさかアイリス様が...」
いきなり村長が話すのをやめた。そして固まった。
心配になったので、声をかけた。
「村長様? どうかなさいまし...」
「アイリス様だとおお!!!!!」
「そうですが。」
「コチョウ、しばらく2人にしてくれ。話さないといけないことがあるのだ。」
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