自滅の始まり

 目が眩むほどの装飾品。輝く衣装を身につけたたくさんの貴族。

 そう、ここは王宮だ。

 今日はたくさんの貴族を集め、パーティーが開かれている。


 (みなさん、幸せそうね。)


 幸せでないのは、私1人だけ。


  小さな頃、私の力を知った王族は無理矢理王子と私を婚約させた。まだ子供だったから、訳もわからず喜んでいた。だって、お姫様になったもの。

 けれど、「愛」なんてものはとっくの昔に冷めてしまった。次第に王子は他の女に寄って行った。

 「別に婚約破棄するつもりはない。お前がつまらないだけだ。」

 こんな事を毎日言われ続け、次第に何も感じなくなっていた。

 力だけ吸い取られ、ただ利用されるだけの日々だった。


 「皆の者!少し注目してくれ!」


 いきなり大きな声を上げたのは、この国の第一王子。私の婚約者だ。


 「このロバート・スコット・キリオスは、アイリス・オースティン・ウィリアムズと婚約を破棄し、絶縁する。そして、シャルロッテ・ドナルド・コナーズとの結婚を発表する。」


 「は?」


 そういえば王子の隣に、可愛らしい女性が立っていた。

 周囲がざわざわと騒ぎ出す。

 そりゃあね。婚約を飛び越して結婚なんだもの。


 「王子は知らないのか。アイリス様がどれだけこの国にとって重要なのか。」

 「なんと、恩知らずな。」


 王子に聞こえないような声で失礼な言い方をするものもいる。


 「理由を聞いても?」


 「はっ、お前は女としてつまらない。このシャルロッテを見てみろ。お前は彼女のように俺に尽くしたことがあるか?」


 シャルロッテというのか。彼女は私のことを軽蔑するような表情を浮かべていた。おそらく愛しているのは王子ではなく、王子という称号だろう。

 彼女の心はきっと、ドブネズミよりもきたないでしょうね。

 

 しばらく黙っていると、また王子が口を開いた。


 「まあ、お前の力は誰もが認めている。婚約は破棄するが、どうしてもというのならここにおいてやってもいいぞ。そうでないなら国から出ていけ。」


 (なるほど。これを言うために王がいない今日、パーティーを開いたのね。王がいたら、絶対に止めるだろうから。)


 「あの、王子。アイリス様は重要な存在です。もっと大切に...」


 1人の貴族が声をあげる。


 「黙れ!!俺は次期国王だぞ!お前を潰す事くらい造作もないことだ。さあ、アイリス。どうする?」


 「私と絶縁したとして、困るのはそちらかと思いますが。」

 

 「今更負け惜しみか?お前の力なんて、ただの迷信だろう。」


 また、ざわざわと騒がしくなる。


 「ああ、なんということを。」

 「アイリス様が国を出ていくのなら、私は着いて行こうと思う。」

 「私もだ。」


 「そうですか。婚約破棄、謹んでお受けいたします。そして、この王宮にいることを許してくださるというその寛大なお心、感謝いたします。」


 私が頭を下げたことがよっぽど嬉しいのか、王子とシャルロッテが勝ち誇ったような笑みを浮かべる。


 「しかしながら、私は国外へ行こうと思います。」


 「なんだと?」


 今までこの国を守ってきたこの私を侮辱する恩知らずは、この先苦労するでしょう。


 「ま、待て!」

 

 「それでは、部外者は失礼します。」


 そう言って、王宮を後にした。


 

 

 



 

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