第61話 パーティ

 ようやく製品ができて、発売が発表され、事業部でも打ち上げパーティが開かれた。

 大会議室にハード・ソフトの開発メンバーが集められ、ビールとサンドイッチと寿司が提供された。


 これで何度目だろう。

 低予算の見本のような祝賀会。

 サンドイッチは具は薄くパサパサで、寿司は乾燥していて口に入れるのが躊躇われる代物。一目で一番安い仕出しコースを頼んだなと分かる。

 お前たちにはこれぐらいでいいんだという部下を舐め切った態度が大変に不快だ。つまりはコッペパン案件なのだ。


「早く行かないと無くなっちゃぞお」

 そう言いながらナハハが山盛りにしたお皿を持って、なぜか得意げに周囲に見せびらかした後にパクつく。人数分あるはずが足りなくなるのはお前のような卑しいヤツがいるからなんだけどなと呆れる。

 さんざハードの進行を遅らせた挙句、その責任をファームに押しつけてナハハと笑いながら逃げたことは忘れんぞ。この鬼ごっこ野郎。


 元よりこんなものを食べる気はない。グルメというわけではないが、それでも相手が歓待する気がないものを受け取るつもりはない。

 「主に五事あり、客に五有あり」と言う。

 主が五事を守らぬなら、客も五有を守ることはない。

(こういった言葉がグーグルで引っかからないことには深く憂慮する)

 慰労などされる気にはなれないのでビールのカップのみを持ち、注意を惹かないように一口だけ口をつけてそのまま一時間を壁ぎわで過ごす。ナハハは手にいれた食料を餓鬼のように食い尽くすとまた取りに行く。タダなら何でもよいという態度が実に見苦しい。


 向こうの方では管理職たちがプロジェクトの成功を祝っている。

 喚いてファーム部隊を責めるだけだったり、役立たずの技術派遣を放り込んで仕事を邪魔したりと何の役にも立たなかった管理職たちの大成功。

 やったことと言えばファームが悪いの大合唱である。

 胸糞が悪くなった。こいつらもすべて会社ごっこをしている。


「これで次の社長は〇〇さんですな」

 取り巻きの一人に言われて事業部長がニコニコしている。

 ・・そんなことはあり得ないのだ。

 この会社は親会社から移籍して来た重役が社長をやる。そのまま数年いてまた本社に戻る。子会社の社長を無事に務めたという実績を手柄にして更なる出世街道を登る。そういう仕組みなのだ。

 だから絶対にこの会社でのたたき上げは社長にはなれない。

 本人もそれは知っているはずで、取り巻き連中もそれを知っているはずなのだ。

 それでもそういう言葉に希望を見出すしかない。


 なんと人間というものの心は弱いものなのか。

 ざわめくパーティ会場で私はじっと人間たちを見ている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る