第59話 嵐

 今日は実験室の窓の外は嵐だ。

 真昼なのに暗い。暗雲が大地の上を隈なく覆っている。強い風が吹く中、遠くの山並みに稲妻の光が連続で閃く。これほど凄い雷鳴の日は初めてだった。

 林立する稲妻の柱がこちらにどんどん近づいて来る。

 どよめきを上げながら、部下が窓へと集まる。


 雷様は大好きだ。そっと実験機器の電源を落としながらそう思った。大好きだけど大困り。電源回路に稲妻のスパークが乗りでもしたら、機械が壊れてしまう。可能性は低いが、無いとも言えない。くわばら、くわばら。


 だんだんと雷様が近づいてくる。

 音もどかんごろごろから、バシンバシンという鋭いものに変わっていく。

 S君がスマホを持って外に飛び出していった。

「屋上に行ってみる」そう言い残して。

 雨が激しく降る。その中で、一際大きな音が響いた。このビルへの直撃だ。

 窓の外が白光に染まる。

「おい」思わず声が出た。

「さっき誰か屋上に行くと言っていなかったか?」


 一瞬、静寂が流れた・・・


 あいつ、大丈夫か!

 誰か屋上行ってこい。


 そう皆が騒いでいるところへ、当の本人が帰って来た。

「いや~危なかった。目の前に落ちた」

 本人が頭を掻きながら言う。それを聞きながらも、私はそっと視線を下へと飛ばし、足がついているかどうかを確かめる。

「写真を撮った」スマホを差し出した。

 画面の左半分は屋上の風景。右半分は・・・真っ白。稲光で埋まっている。

 これでよく死ななかったな、とその場にいた全員が呆れた。

「後数秒屋上に出るのが早かったら、直撃だったね」

 笑い話と悲劇の境目はほんの数秒のところにある。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る