第55話 大合唱

「ここのところの会議じゃ、みながファームが悪いの大合唱をしているんだぜ」

 同僚が教えてくれた。

 何だって?

 話を聞いてみると、戦略会議では、毎回みなが口を揃えてファーム部隊が悪いと叫ぶらしい。工程の遅れも、製品動作の不良もすべてファームが悪いことにされている。それに対してうちの昼ギツネ課長は何も言わない。

 ファームが悪いというのは詰まるところ、私が悪いということだ。なるほど「どうしてあいつを辞めさせないんだ」とS部長が喚くわけだ。

 これは大変にまずい。

 言い訳する暇があるなら一秒でも早く対処せよ、との方針を貫いたのが裏目に出てしまったようだ。ここの人間たちの質の悪さを甘く見ていたと後悔した。

 自分一人が悪者にされるのは慣れているが、部下にそういった悪いレッテルが貼られるのは困る。彼らの将来に影響してしまう。


「聞くところによるとファームが悪いと大合唱しているとのこと。次の会議には私も出ます」

 昼ギツネ課長にそう言ってみると、大いに慌てた。

 私がいないと思って会議では私を悪者にして部長の怒りをやり過ごしているのだなと思った。


 うん、そうなんですよ。彼は私の言うことを決してきかないんですよ。

 こんな感じで。

「いや、君には会議なんかに出ないで仕事に専念してもらいたいと思うんだよね」

 昼ギツネ課長が慌てて何とか理由をつけて取り繕う。


「凄いことになっているよ」ひらひら蝶の人が言いつけにきた。

「この間は電源が火を噴いた件で電源担当がファームが悪いと騒いでいたぞ」


 電源オンオフのための信号線は一本しかない。つまり電源が火を噴いたのは電源オンしたこちらが悪いと言っているらしい。

 誰がどう考えてもおかしいのだが、一度悪者ができあがると理屈も何もなくそこに押しつける。ファームが悪いという呪文で思考停止に陥っている管理職たちも理非を考えずに、その理由付けを受け入れてしまう。


 後でチューナー担当のN君が電源回路を見て笑っていた。

「抵抗が同じ種類のものを二つ使っているんですよ」

 おやおや?

 電源設計のプロと聞いていたがこれはどうしたことか。

 電源回路の抵抗は温度により変化する。だから同じ抵抗を使うと電源が熱を持つと電流がたくさん流れ、結果としてさらに熱を持つ。その結果、電源は火を噴く。

 だから電源回路の抵抗は温度特性が逆のものを組み合わせて使う。電源回路のイロハであり、これを知らない電源設計者はあり得ないのだ。


 口だけ技術者の言うことはまともに信じるのに、足下で奇跡を起こし続ける私は辞めさせろの大合唱か。

 何とも呆れたものである。

 だが集団となった人間というものは基本的に馬鹿だ。決して自らの行いを改めることはしない。

 私の未来はこの時点で決まっていた。

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