第50話 お間抜け様二選
締め切りが近いのでウチのグループ全員で徹夜する。
別にメンバーに命令したわけではない。休日出勤からそのままそういう流れになったのだ。メンバー全員の技術者魂の為せる技とも言える。
昼ギツネ課長だけはしっかりと休日を堪能している。まあその方が邪魔がなくていいが。
徹夜明けの朝、代わりにH部長付けが出現した。
一所懸命に頑張る部下たちに朝食の差し入れだ。有難さに涙が出た。
コッペパンの大袋に、ペットボトルのコーラ。
徹夜明けの疲れた胃袋にパサパサの味のないパンが入るわけがない。
皆が躊躇していると、どうした遠慮なく食えよとドヤ顔で宣うH部長付け。
わ~い、大好きなコッペパンだあ~。そういって齧り付くとでも思ったのだろうか。
この人は本当に気が利かないのだなと思った。それとも部長付けという職はそんなに給料が低いのか。もしかしたらこの人の家計はすべて奥さんに握られていて自由になるお金は一カ月に千円札一枚で、その貴重なお金で精一杯のねぎらいをしているのではないか。だとしたら無碍にしてはいかんな。
そんなことを考えた。
一個だけコッペパンを取り、もそもそと食い、礼を言ってまた席に戻り仕事する。他のメンバーもコッペパンを一つだけ取り自席に戻るが口はつけない。
辛いなあ。本当に辛い。徹夜仕事をしてなおかつ上司のご機嫌を取らないといけない。
そもそもがこの徹夜だってウチの部隊が進行を遅らせたのではない。
あり得ないほど短い工期を勝手に決めた管理職が200%悪いのだ。
彼らの不始末に対処するために部下がこうして地獄を見ているのだ。
コッペパンを差し入れたぐらいで彼らに感謝する謂れはない。
お昼になったら何かマトモなものを食べに行こうっと。
コッペパンは誰も食べたがらない罰ゲームなので密かにゴミ箱に直行した。
*
発売寸前の製品を暇にあかせて弄っていた事業部長が感想を述べた。
「こうするとこうなるよな。ここをこうしなさい」
こちらはパニックである。一見簡単な修正に見えるが、システムの根本動作から生み出されている動きなので、これを無理に直そうとすれば最低でも一か月はかかる。
もの知らずの素人は気楽なものだ。気分次第で仕様を変えやがる。
いい加減にしてくれ馬鹿上司と思いながら、さてどうしようかと手をこまねく。怖くて簡単にはコードに触れない。
二時間後、また事業部長が現れた。同じところを弄って一言。
「うん、ずいぶん良くなった」
危機は去った。我々は生き延びたのだ。
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