第51話 犠牲者二選
K君は中途採用でエアコン部隊に配属された。
旧態然としたそこの開発現場を見て衝撃を受け、これを改革しなくてはいけないと考えた。
文書を整理し、設計書のワープロ化や記述規約の改善などを求めた。
つまり職場を近代化しようとしたのである。
だが人間というものは将来それで自分が泣くことになると知ってはいても、コードにコメント一つ埋め込まない怠惰な存在なのである。
縦のものを横にもしない。それが大部分の人間なのだ。
彼とアホどもの戦いは数年続き、そして彼の心は折られ削られていった。
その改革の試みはことごとく古い連中に無視され続けたのだ。
結局は彼は失望を抱えてこの会社を去ることになった。
*
H君はやる気のある元気な新入社員だった。
未来目指してただひたすらに仕事を頑張っていた。
彼が壊れたのは休日ゼロが二年間続いた頃である。
この辺りが人間の限界らしい。
鬱病の発症である。
そこで要らないことをしたのが飛び切りのアホウであるH部長付である。
以前まだH君が元気な時代にアメリカでもどこでも行きますよと言っていたのを覚えていたらしい。
いきなり持ちあがったアメリカ支社への移籍人員にH君を推したのである。
本人は嫌がった。周囲も彼はこんな状態だから海外出張なんてとんでもないと止めた。だがH部長付は意見を曲げなかった。
恐らくH部長付けの頭の中では痴呆症が発症していたのだろう。だから新しい情報を認識できない。それでも失禁してズボンの前を濡らさなければ周囲は痴呆症だとは気づかれない。ただ頑固なだけと思われる。
かってのどこかの元総理と同じケースだ。
H君は泣きながらアメリカに送り出され、二カ月ほどして勝手に帰国すると会社を辞めた。
このすべてはH部長付の罪であることをここに記す。
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