第46話 解決策
「ひ~、ひ~、疲れたよう」
T氏がぶちぶちといつもの口癖を言う。
ああ、ウザイ。
いいや、あんたは疲れてはいない。技術書をのんびりと読むフリをしているだけじゃないか、疲れるわけがない。
疲れているのはこっちだ。
深夜12時が近い。もう帰ろう。
「もう帰るのか?」T氏が声をかけてくる。
「12時までガンバロウヨ」
あんた何様だい。Tよ。
私の横で本読んでいるだけじゃないか。私の仕事を監督するフリをして残業代を稼いでいるだけの男。
吐き気がした。
あまりの激務に熱が出た。ふらふらする。それでも仕事の手は休めない。誰にも任せることができない。誰も助けてはくれない。自分で解決しない限り、問題は決して解決しない。
それに熱を出せば休めると体に教えてしまうと、これから先も何かあるごとに熱が出るようになる。そんな癖をつけるわけにはいかない。
死にそうな息子の様子を見て、信心している母親が仏壇でおがむ。この子がゆっくり休めますようにと。
信心のお蔭はすぐにあった。
深夜に帰宅しているときに、青信号を無視した車が突っ込んで来たのだ。真っ赤なスポーツカーである。
思わず背後に飛退いて、太もも衝突までわずかに3センチで危うく衝突を回避した。
やばかったと冷や汗が出た。
家に帰って母親に頼み込んだ。お願いしますから、私が休めるようにと祈らないでください。
確かに両太もも骨折ならば病院でゆっくりと休めはするが。ぶるぶる、冗談じゃない。
それに入院したらしたで、ベッドの上にまでパソコンを持ち込んで来そうだ。あのロクデナシ管理職どもは。
とにかく私の身の周りは邪悪な言霊が見張っている。
迂闊な願いを口に出してはいけないのだ。必ず物凄く意地悪な形で実現してくれるから。
(身の回りの実話怪談「言霊」参照)
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