第45話 気晴らし

 たまに気が向いたら部下をつれて焼き肉屋に行く。

 カルビ10人前、ロース10人前を頼むところから始める。一人につき千円を集め、残りは自分の給料で補填する。

 このための特別なお金を会社から貰っているわけではない。全部自腹である。

 だが一生懸命働いている彼らを見ていると報わねばという気分になってしまうのだ。

 半面、昼ギツネ課長はここ数年の間、課での宴会もしなければ課内会議もしない。だからどの人がウチの課の人間なのかさえもはっきりとしない。

 これで管理職のつもりなのだから恐れ入る。

 本当に役立たずだ。

 管理職の管理とは『人間管理』の意味なのだから。


 そうこうしていたらH君とSM君がお金を出し合って、いつもお世話になっていますからとご馳走で私をねぎらってくれた。

 嬉しいなあ。

 こういうことがあるとほんのわずかだが人間が好きになる。



 ウチの課の中では雑談は自由である。むしろ私が率先して雑談している。

 研究結果によると、人間は仕事に必要な情報の60%近くを雑談の中から得ている。つまり雑談の無い職場は失敗する職場である。

 よく雑談していると怒鳴り散らす管理職がいるが、こういうのは逆効果の際たるものである。

 管理職の管理とは『人間管理』の意味なのだから。



 ウチの課の中ではうっかり居眠りしている人間の前には十分経過する毎に私手作りの小人人形を置いていくことにしている。起こさないように静かに近づいて、寝ている顔の前に人形を一つづつ置いていくのだ。最高記録は4体=40分である。

 大笑い。

 この場合の居眠りはサボリではない。脳が放電の極に達して機能停止しているのだ。数十分寝て起きた方が遥かに仕事の効率が上がる。どのみち眠い状態で作ったコードはヤバ過ぎて後で全部書き直すのがオチだ。



 昼休みは皆で楽しく対戦型ドゥームをやっていたら、たちまちにして禁止令が出た。どうせ短い昼休憩の間もパソコンの電源は点けっぱなしである。ゲームをしたからと言ってさほど余分な電気代がかかるわけではない。こういった管理職はただ単に平社員が楽しそうにしているのが許せないだけなのである。

 この種のクズ管理職は多い。部下に余分なストレスをかけることが管理職の仕事だと勘違いしているのだ。

 ある能率研究所で部長クラスにアンケートを取った例がある。七割の部長が、過重労働で部下の家庭が崩壊することこそが部長としての腕だと考えていることが判明している。

 鬼の所業である。


 ゲームを禁止されて明らかに仕事のペースが落ちた。会社にいるのがただただ苦痛になってしまったためだ。

 工夫して作り上げた楽しい職場が馬鹿な管理職の決定のお陰でただ苦しいだけの拷問場に成り下がってしまった。

 無能な働き者はただひたすらに余計なことをする。

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