第40話 日常1

 今日は休日なのに管理職たちは朝から会議である。

 特に部長というものは休日の会議が好きである。

 お偉い部長さんも家にいればただの陸に上がったトドである。女房には生ごみ扱いされて、娘には無視される。

 だが会社にいて会議をすれば心行くまで部下を怒鳴ることができる。一日中優越感に浸っていられるし、おまけに仕事をしているアピールまでできる。

 これはもう部長の立場からすれば休日は会議して過ごさなければ損である。

 課長クラスにとっては心が休まる暇はない。


 だがこれは下々に取っても迷惑である。

 S君は金曜日に課長から仕事を頼まれた。

 金曜の夕刻はしかかりの仕事を片付けるのに使われた。

 土曜日は朝から課長の会議に引きずり出された。昼からは営業の人間が来て技術営業の会議に連れていかれた。

 日曜日はまた別の会議に引き出された。他に技術の人がいなかったためである。

 月曜日、今日こそはと腕まくりすると、またもや営業から呼び出された。

 夕刻には何日も前から会議が入っている。

 火曜日、どうしてまだ言いつけた仕事ができていないんだと課長に怒られたという。

 まさに理不尽。



 T氏がひ~らひらとやってきた。

 目の前に書類を置く。何かのプロジェクトのスケッチだ。

「これどう思う?」

 あの~。私忙しいんですけど。見てわかりません?

 このクソがと思いながらも内容に目を通す。

 その場で10個ほど問題点を指摘する。というより思いつきで書いたものを持って来るなよ。

 たちまちにしてT氏の表情が険しくなる。

「もういい!」吐き捨てると居なくなった。


 いったい何を期待していたのだろう。

 これは凄いアイデアですね。ぜひ私にやらせてください。もちろん成果はすべてあなたのものですよ。あ、課長には内緒にしておきますね。

 そう言って貰えると思っていたのだろう。

 おぶさりてぇの新しい手法である。拾ってきて私に仕事を押しつけるのではなく、自分で仕事を作って私に押しつけるのだ。


 何とか自分は仕事をしているぞアピールをしたいのだろうけど、人のフンドシを借りに来るのは止めて欲しい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る