第27話 できない君の迷走
エアコン部隊の新人のU君がやってきた。
何か問題が起きたときは私のところに相談に行くようにと誰かに言われたらしい。
困ったものだ。
私はドラ〇モンじゃないだぞ。
これ動かないんですけど。
彼が持って来たのは画面にコードダンプを出すソフト。実行するとフリーズするらしい。
ええい、それは俺の仕事じゃない。
ざっとコードを見て、割込みを止めている部分を見つける。
パソコンを起動してウィンドウズに備え付けの機能を使い画面にコードをダンプさせる。
「見てごらん。コードが目に見えるだろ?」
「ええ?」
「本来のCPUの速さなら人間の目には留まらない速さで動く。つまりコードが目に見えるということは途中に割込みを入れて速度を落としているってことだ」
「ええ」
「だからそのプログラムの中で割込みを停止すると当然コードダンプは割込みに飛んだところで動かなくなる。ここは自分で遅延ルーチンを組まないといけない」
頭をかしげながら彼は去った。はてさて理解したのやらしなかったのやら。
再びU君がやってきた。
以前T氏が作ったデバッグ基板を持っている。表面にラッピングで作った接続線がてんこ盛りになっているでかい基板だ。
「動かないんですけど」
だからどうして私の所に持って来る。T氏の所に持っていくのが筋でしょうが。
しら~ん!
回路図もないのにただ単に動かないとだけ言われて分かるか。
それとも何か?
私なら一目見て動かない理由がわかるとでも言うのか。
ぶちぶち言いながらも基板を一目見て、動かない理由が分かった。
黄色のビニールの配線テンコ盛りの中に一本だけ銀色の線が走っている。
つまりビニール被覆が熱で蒸発したということだ。
「この線」指さす。「恐らくグランドと電源が直結している。配線ミスだ」
持って帰っていった。それで済んだところを見ると解決したみたいだ。
かなり経って彼がまた来た。
紙を私の前に置く。それには泣いている男の絵が下手くそに描かれている。
「声に出さずにこれを見てください」
そう書いてある。その上で彼が手をずらすと文字が見えた。
「ボク、今度首になります。もうここはボクがいらないそうです」
はあ、はあ、そうなりましたか。
でもそんなこと口で言えばいいじゃないですか。何で漫画に仕上げる必要があるんですか?
そんな幼稚な態度だから首になるのですよ。
同情はする気になれなかった。
彼が力をつける時間は十分にあった。その間に彼は何も勉強しなかった。
世の中には技術系の会社に在籍するだけで技術力がつくものと勘違いする輩が実は驚くほど多い。技術書を読み、仕事の中で実践し、よく考え、自分の技術を修正し、その苦労と努力の果てに技術力は上がる。それ以外では後退こそすれ腕が上がることはない。
会社には仕事ができないものを食わせる義務はどこにもないのだ。
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