第24話 子供たち

 新たに指揮下に入った新人たち、とは言っても数年分の開発経験は持っているのだが、を頭の中で「子供たち」と呼んでいた。

 仕事を大まかに分けて与えることにした。S君にはリモコンの筐体開発とディスプレイに文字を出す部分を任せ、N君は外部に追加するテレビ用チューナーの部分を担当してもらうことにした。以前の課からそのまま引き継いだ新人のS君にはサブシステムとソース全体の管理を頼んだ。

 一人、パソコン系の言語が中心のST君はリモート制御用のソフトを作ることになった。

 かなり大まかな仕事割りだが、そもそもどのような製品を作るのかも不明なら、どのようにハード基板を動かすのかも不明である。とりあえず必須となるに違い無い部分を分けて制作するしかないのが実情だ。


 大まかな動きを説明した後に一言だけ言い添える。

「うまく行かないと思ったときは躊躇わずに相談。失敗しそうなときは、私が全部肩代わりします」


 どの子も良い子だ。

 ときたま悩んでいる様子を見せていたが、最後まで弱音を吐かず、自分で工夫をし、調査をし、実験をして乗り切ってしまった。やはり技術者はこうでなくては。


 S君はまずリモコンから掛かった。リモコンは赤外線通信を使う。業界にはおおまかに分けて二つの操作体系が存在している。今回使用するのは家製協フォーマットと呼ばれるものだ。

 この赤外線というやつが実に厄介な代物である。リモコンはどの家電でも使われているが、ことエアコンとプラズマディスプレイ関係では赤外線というものは相性が大変によくない。

 エアコンは普通天井付近に設置される。天井には蛍光灯などの照明器具がぶら下がっていて、これが電源周波数に相当する強烈な赤外線パルスを撒き散らす。そのため、普通のリモコンの作り方ではうまく動かない。

 同様に、プラズマディスプレイもその強烈な輝度のお返しに、大量の赤外線パルスを周囲に放出する。まさにリモコンキラーなのである。

 この難問に挑戦するために、S君は執拗にそして組織的に実験を行った。各リモコンメーカーから実験用のサンプルを取り寄せ、使える距離や角度を何度も調査する。リモコン送受信両方を考え、最適なパラメータへと近づけて行く。


「いや~、先日自衛隊に行って来たんだけどね」

 M部長が感想を漏らした。

「感謝されたよ。あそこの潜水艦に薄型TVを入れたんだ。ほら潜水艦の中って狭いじゃない。薄型TVだと助かるんだって。それでね。今までの普通のTVってリモコンがまったく働かなかったんだって。ほら、潜水艦って外に音が漏れないように赤外線トーキーを使って会話しているから、赤外線ノイズの山なんだってね。それがうちのTVだとリモコンがきちんと動くんだってね」


 まさにS君の面目躍如である。こういう話を聞くときが技術者は一番嬉しい。

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