第22話 展示会

 新人君を一人引きつれてNHKの技術展示会に行く。

 会場はスーツを着たサラリーマンで一杯だ。


 一部のブースでは氷に埋め込むマイクの実演をやっていた。スピードスケーターの放映の際にスケートが氷を削る音を視聴者に聞かせるために開発したらしい。NHKは何と金持ちなことか。

 他のブースではハープ素子を使って暗闇の中で光子数個でも撮影できる超高性能カメラが展示されている。

 色々見て回って技術の傾向が見えてきたので、帰って報告書を書いた。


 報告書の内容はNHKは視聴者から集めた金で軍事技術を開発しているという趣旨だ。

 氷埋め込みマイクは北極の氷に埋め込むためのものだ。

 核ミサイル搭載の原子力潜水艦は北極海の氷の下に潜む。そこではソナーを投下できない上に、氷山によるソナー音波の乱反射でほぼ探知されないからだ。ところが氷マイクがあれば原潜の位置を氷の上から捉えることができる。つまりこの技術は軍事転用可能なのだ。

 そして超高性能カメラは言うまでもないが、より性能の高い暗視スコープに転用できる。暗示スコープの増幅率が上がれば上がるほど、昼光の下での映像に近づき、立体感を得ることができる。これは戦術的に実に大きなアドバンスを生み出すのだ。

 その他の展示物どれもが軍事転用が可能なもので揃えられている。


 目立たないだけでこの国にも深い闇はあるのだなと感じる。

 例えば今は廃炉処分されたが原子炉文殊の核物質精製スベックが70%であることなどが挙げられる。商業用原子炉に必要な精製率が30%であり、兵器級が90%であることを知っていれば、文殊が核兵器開発を目的としていたことは自明の理である。



 この報告書を読んで一番楽しんでいたのがN課長である。この人は柔軟な思考ができるからである。

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