第21話 中国というもの
時は中国への進出ブーム。まだ中国がその本性を顕わにしていなかった頃である。
その仕事に関わっていたN課長が色々と話してくれた。
中国に進出を始めたころ。
日本では金型に融けたプラスチックを機械で流し込んで作る。中国では金型に融けたプラスチックを作業者が刷毛で塗る。その結果、出来た製品の三分の一だけが出荷され、後はすべてゴミとなる。
「それでも日本で作るより安いんだ」と笑っていた。
このような理由で多くの日本企業が中国に工場を作った。安かろう悪かろうの時代の始まりである。この頃を境にしてラジカセの類が一年で壊れるようになった。五年は壊れない純日本製では絶対にあり得ないことである。
凄まじい人材入手合戦で、カラオケがないと働けないなどと中国人労働者が大騒ぎしていたことを思い出す。
生産指導に行った人の話。
「これをこうしてこう。そして検査に合格したら、こうやって検査表に一つハンコを押す」
目の前で実演して見せた。
「そしてこの検査表がすべて埋まったら仕事は終わり。お金が出ます」
話を聞いていた中国の工場長が手を差しだして検査表を貰う。手にしたハンコを片っ端から押すとまたその検査表を差し出した。
「これでいいですか? さあ、お金をください」
思わず怒鳴りつけたという。それでも工場長本人はいたって真面目だった。
これが共産主義の国の人間の普通の考え方である。
すべて合格で検査表が出て来た。合格した製品を見に行くと、電子基板の上のLSIチップが半分ずれて半田付けされている。これで動くわけがない。検査表すべてが捏造であった。
つまり工場長は何も学習していなかったのだ。
結局、検査は日本でやることにした。
この時期から中国製品のひどさが日本人経営者にも分かり、検査だけは日本でやるという会社が増えた。
これも中国に進出した工場の日本人管理職の話。
部屋を出る前には必ず鍵をかけるようにしているそうだ。それはトイレでの中座でも同じ。一瞬でも油断はできない。
彼らは管理職の部屋を見張っていて、無人になると見るや忍び込み、部屋の中に置いてあるパソコンを操作して勤怠表を自分の都合の良いように書き換えてしまうのだ。それが普通なのである。倫理観とか職業意識というものは欠片もない。
工場に就職するときには中国人は五人でグループを作る。
この五人がそれぞれ五つの会社に同時に就職する。その後は一つの会社に一人ずつが出勤し、五人分のタイムカードを一気に押す。こうすれば各自五倍の給料が手に入るという仕組みだ。
これを防ぐためにタイムカードのある場所に会社が監視カメラを設置した。
次の日、監視カメラは破壊され、タイムカードはすべて押されていたというオチがつく。
これが中国の労働者というものの典型である。
一方、雇用者側もひどいものである。
以前ここの依頼でタイムカード処理ソフトを作ったことがある。結果としてはこれは中国への売り込みに失敗した。
日本で行われる労働形態は中国では問題外だったためである。
向こうのシフトには三連徹シフト(最大72時間連続勤務)や妊婦シフトなるものが存在し、日本では絶対に労働基準法違反だろうというようなシフトが多数存在するため対処が不可能だったのだ。
「君、中国に二カ月ほど出張して貰えるか」
この言葉に下手に頷くのは危険である。後継者が見つからないという理由で二カ月はたいがい二年になるからである。
最初から年単位を出された場合は、十年を覚悟するべきだとの話もあった。
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