第14話 心機一転
エアコンの仕事が終わった途端に、新しい部門への移籍が決まった。
どうしてどこでも私の手が少しでも空くと仕事が流れ込んで来るのだろう。あいつだけはのんびりさせてはいけないとでも誰かが決心しているかのようだ。
今度の仕事はプラズマディスプレイと呼ばれる新製品の開発である。薄型テレビの基礎となるものにはプラズマ方式と液晶方式がある。プラズマ方式の方が画面が明るく斜め横からでも良く見える。一方、液晶方式は消費電力がとても少ない。最終的には液晶方式が普及するものと予測されていたが、プラズマ方式にもそれなりの需要があり商品企画としては狙い目であった。
この会社は今度新たに世界初の家電としてのプラズマディスプレイ商品開発に向けて、新部門を立ち上げた。それがこの部署である。
前の仕事での新人一名を連れ、新たに他の部門からの移籍者も加わってそれなりの賑わいが出た。課長も知らない人だ。Sと名乗った。ソフト畑出身の、細身のどことなく頼りなく見える人だ。
この課長のことを母に話したところ次のような感想を得た。
「昼ギツネ馬に乗ったような人だね」
おやおや、珍しい言葉を。そういうわけで今後この人のことは昼ギツネ課長と呼ぶことにする。
実験室の窓際に陣取って、パソコン画面と睨みあう毎日が始まった。
とは言え、何から始めれば良いのやら・・・
ぽん、と目の前にハード基板が置かれた。
へ?
「じゃ、これで」
電子基板を置いたハード担当の人が、薄ら笑いを浮かべて消える。彼はその笑い方からナハハと呼ばれることになる。いい加減で人を舐めた人物なので尊称は無しだ。
ええっと。困惑した。
製品要求仕様書は? 製品概要仕様書は? ハード仕様書は?
この電子回路基板で何を作ればいいの!?
目が点になってしまった。
ここは会社ではない。大きな遊戯場であることはすぐに判明することになる。
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