第10話 鼻ひげ課長

 鼻ひげを生やした課長さんが話に来た。

「君、F社に居たときからその髪型なの?」

 私のオールバック長髪三つ編みを示しながら言う。

「いえ、F社を辞めてから伸ばしたものですよ」

「やっぱり。僕の鼻ひげもね、人事の連中から剃れと言われているんですよ。F社の全社員の中で鼻ひげを生やしている管理職はボクだけだと言ってね」

 なんとも頭が硬い会社である。社員のあらゆることに口出しをする。

 ではここまでして風紀とやらを強制してその実態はというとどうか?

 今までにも書いたように内部は泥棒だらけである。セクハラ・パワハラ・スメハラどんとこい。さらには後で出て来る予定だが、会社外でもF社の社員には何か勘違いしたような実に傲慢な行動が多々見受けられる。わが社の社員以外は人に非ずとでも言うかのように、あちらこちらで平気でトラブルを起こすのである。

 大企業の社員としての驕りと言ってもよい。

 大企業に入ったからといって別に給料が良いわけでもなく、人格が磨かれるわけでもないのだが。

 人間は実に愚かで、速やかに腐敗する。


 他にも初の女性管理職がいたが、一年も経たない内に他の男性管理職たちが結束して辞めさせてしまった。呆れたものである。


 加えて、この会社は遠慮なくリストラをする。

 F社は表向きは不況でも絶対にリストラをしないことを歌い文句としている。その代わりに子会社か関連会社にリストラ要員を移籍させ、そこでリストラをするのだ。これなら本社は傷つかない。

 ド汚ねえ話である。

 そのような理由でこの会社にはリストラ要員をまとめておく部署が存在する。

 まずF社からここに移籍させ、続いてその首切り部署に移籍させ、そこで救助の手が入らなかった場合には首を切るのである。


 嫌な渡世だなあ。

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