第4話 真綿で首を絞める
この会社での最初の仕事は、今までアセンブラ言語で書かれていたエアコンの動作を、C言語という進化した言語で書き直すこと。ただしC言語はこの時点でも産まれてから数十年が経過した言語でそこまで最新というわけではない。ただ使い勝手が良く見通しが良く、まるで良く切れるナイフのようなと表現できる言語である。
人類は数千年に渡りほぼ同じ形のナイフを使い続けている。C言語もこれから先いつまでも残り続けるであろう。
アセンブラ言語は速くてコンパクト。ただし扱いが大変に難しい。一方でC言語は少し遅くて少し必要な容量が大きくなる。だが一度慣れると、コード自体を素早く書くことができて、修正も簡単である。
速度よりも扱い易さ。これこそが技術の転換期である。
つまりはこの会社のソフト設計はひどく遅れていたのである。
こちらの新人が一人。元々の部門からはハード担当のベテラン一人、新人二人をつけて貰って、プロジェクトは始まった。
実はこれには裏がある。長年この部門を管理してきたI課長である。
前の会社から移籍する際に面接を行ったときに、この会社の専務が私を気に入ったようで、今度物凄く賢い人間が来るぞと自慢したらしいのだ。
長い間統括してきたI課長に取っては、自分がやってきたアセンブラ言語を排して新しいC言語に変えられるのが大変に面白くなかった。
そういうことである。
表に出ない形での嫌がらせが始まっていた。
つけられた三人の新人はまるっきりの新人でエアコンに関してもまったくのド素人。そしてハードの人はベテランではあるが大ボケでまったく仕事ができない人物であった。
つまりは誰に何を聞いてもマトモな回答が帰って来ない。
特にひどいのがこのベテランの人で、同じ質問を訊くたびに回答が異なる。まるっきりの駄目な人であった。
こういう人選を当てること自体、開発に失敗してしまえという意図が見え隠れしている。
私自身は他人の悪意に鈍感なために後になってこれらに気づく始末。
じわじわと真綿で首を絞められるような仕事が始まった。
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