第4話後宮2

 一年前・後宮「白の離宮」――――



「シャーロット妃様におかれましては、今日からこの離宮で過ごしていただきます」


 そういって恭しく頭を下げたのはこの白亜の宮殿の侍女長。その背後に控える数十名の侍女も揃って頭を下げている。彼女たちの態度に思うところはない。ないのだけれど……。


「私はだと聞いていたのだけれど?これはなにかの間違いではないかしら?」


 聞いていた話と違う。

 “中級妃”として後宮入りするという話だったのに、なぜ自分が“上級妃”として扱われるのか理解できなかった。


 どういうことなの?

 お父様からはなにも聞いていないわよ?


 その疑問に目の前の侍女長は眉ひとつ動かさずに言葉を返す。


「いいえ、間違いではございません。この度、新たにがおこなわれましたので、以前いらした方は別の場所へと移られました」


「……そういうことね」


 つまり、新しくきた妃のために前の妃は別の建物へ移されたのだ。

「妃の配置換え」と言葉を濁しているがそういうことだ。自分のために前の上級妃は中級妃に降格と相成ったのだろう。そして、本来なら中級妃の自分は上級妃へ昇格となったわけだ。


「白の離宮」の上級妃はたしか私と同じ侯爵令嬢だったわよね。陛下よりも年上の方だったはず。なら二十代の後半くらいかしら……?


 忖度された結果だろう。

 誰がしたのかは分からない。

 それでも同じ侯爵家出身とはいえ、相手よりもカールストン侯爵家の方が格上だと判断されたのだ。


 あながち間違いでもないから否定できない。 


 子供のいない妃ということも関係しているはずだ。

 もう一人の上級妃は公爵令嬢で王女を産んでいる。降格はまずありえない。


 王族を生まない侯爵家出身の妃より、新しく入った侯爵家出身の妃を優遇するのは当然のことだった。ましてや相手元上級妃の実家は、侯爵家といえども既に力を失って久しい。


 資産、宮廷での立場を考慮した結果の忖度。

 後宮の管理人は中々のやり手のようだ。



「今日からよろしくお願いしますわ」


 こうして私は不本意ながら新たな住まいとなる「白の離宮」へと足を踏み入れた。

 この時からすでに嫌な予感はあった。

 そして、それはすぐに現実のものとなってしまった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る