第3話後宮1

 郵便局から出ると、先に外に出ていた侍女のリコリスが近づいてくる。


「シャーロット様、馬車の用意ができています」


「ありがとう、リコリス」


 馬車へ乗り込み、御者を務める男にリコリスが合図を出す。すると、ゆっくりと馬車が動き出した。


「よく馬車を準備できたわね」


「郵便局の方が用意してくださいました」


「そう。気配りのできる局員もいたものね」


「まったくです」


 訳アリの貴族だと判断されたにも拘わらずに躊躇なくやってのけた手腕に感心するしかない。もしかするとこちらの素性を知っている者がいたのかも。


 独立機関の郵便局も中々侮れないわね。


 馬車の中には二人しかいない。護衛の騎士もいない。それもまた仕方のないことだった。なにしろ、現段階でリコリス以外の使用人がいないのだから。


 遡ること、一年前。

 国王陛下の後宮へ入ることになった。


 六年前に即位したグーシャ陛下は、御年二十六歳となられ、そろそろ世継ぎを望まれるお年頃だ。

 正妃である王妃殿下はいないものの、後宮には数多くの妃たちが存在していた。


 今年七歳になるエルローラ第一王女殿下、五歳になるアブリル第二王女殿下。この二人の王女しか、生まれていない。王家は男児を望んでいる。貴族と違い、王女には王位継承権はないためだ。

 運の悪いことに今の王家は王族男児が極端に少なかった。


 因みに、この国の後宮は、正妃・上級妃・中級妃・下級妃の四つのランクが存在する。

 正妃は文字通り「正妻」。王妃だ。

 上級妃と中級妃は、高位貴族の令嬢が選ばれ、上級妃の定員は二名、中級妃の定員は四名まで。

 上級妃は後宮で独自の離宮が与えられる一方、中級妃は後宮専用の屋敷の女主ではあるものの、数名の下級妃とも同じ屋敷で暮らさなくてはいけなかった。要は下の妃たちを束ねる役割を求められる中間管理職のようなもの。

 下級妃は、下位貴族の令嬢が選ばれ、人数制限は特にない。



 私は、上級妃として白の離宮を与えられていた。


 後宮入りの条件の一つとして、実家から伴える侍女は一人と決まっていたことから、リコリスが選ばれた。

 リコリスは細身に見えて武芸を身に着けていたし、元々専属侍女でもある。そのため高い教養を身に付けていたし、なにより信頼できる人物だった。


 今にして思えば後宮入りした時から既にケチはついていたわ。それを後宮入りした後で判明したのだからどうしようもないわね。


 窓の外に流れる街並みを眺めながら、当時のことを思い返した。



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