第97話 まさかの同一人物説



 不意の誘いに、ルカの動きが止まる。


「は? グレンはん、冗談キツついわ。あんさん何ゆーてまんねん」


「ダンジョン探索といえば盗賊職シーフの力が必要となる。斥候役として務めてほしんだ」


「あんさんも竜戦士でありながら、第三級の雑用係やろ? ザボったらあかん」


「お前だって知っているだろ? 俺は3分間しか戦えない男だ。可能な限り力を温存したい。優秀な盗賊職シーフなら魔族が現れにくい最善ルートとかも割り出せる筈だ」


 俺達の目的はあくまでボス格プラント・イーターの討伐。

 それ以外の雑魚は可能な限りスルーする。

 他にやるべきこともあるしな。

 

 ルカは「グレンはんには負けるわ~」と呟く。


「ええよ。一時的ならパーティに入りますわ。その代わり報酬はきっちり貰うでぇ」


「交渉成立だ。それじゃルカ、よろしく頼むよ」


 こうしてルカを仲間に加え、明日ダンジョン探索を行うことになった。



 当日、朝一番で洞窟内に潜入する。

 とっとと終わらせて報酬を貰い、今日中に旅立つ予定だ。


「グレンはんら……朝めちゃくちゃ早いわぁ。年寄りとちゃうかぁ?」


 斥候を務めるルカが目を擦りながらボヤいている。

 なんでも朝が弱いらしい。


「早く野暮用を終わらせるためだ。何せ次の目的が控えているからな」


「次の目的? 魔族狩りでっか?」


「違う――とある国で他大陸の勇者と会う約束をしているんだ」


 そう。

 竜撃パーティがワイネア王国を旅立った後、これまで無視していた勇者達の反応が一変した。

 何せ、勇者が不在なのに魔王軍の最強幹部こと『雹炎のヘルディン』を斃したパーティだからな。

 しかも一番最初の快挙だったようだ。


 そりゃ嫌でも注目するだろう。


 んで勇者の一人がスマホのメールで俺にアポを取ってきたというわけだ。

 互いが持つ情報を共有するため、指定された国で待ち合わせすることになっている。


「へ~え、グレンはんも頑張ってますやん。逆に勇者イクトがおらんようになってから、まとまりが出来たとちゃいまっか?」


 俺もそう思う。てか誰が見てもそう思うよな。

 などと会話していると、アムティアが「すみません」と言ってきた。

 

「師匠……イクトで思い出しましたが、今回ダンジョンで生き残った雑用係の名がどうも引っ掛かるのですが?」


「ん? イキトって奴だっけ? そういや名前が似ているな……アム、何が気になる?」


「いえ、冒険者ギルドで少し小耳に挟んだ程度ですが、その者……剣士だった頃は実力がない癖に普段からやたらイキがっていたという噂でして」


「お姉さんも聞いたわ……口癖は『僕ぅ、何かやっちゃいました~ん』ですって」


「……まさかの同一人物説」


 アムティアだけじゃなく、イクトを知るエアルウェンやリフィナも疑念を投げ掛けてくる。


「おいおいおい。イクトは死んだ筈だろ? まさかアンデットになって蘇ったって言うのか……けどあの野郎ならあり得るな」


 冗談交じりで言いながら、次第に俺もそう思えてきた。

 そういや、ここぞという悪運だけはやたら強かった気がする。

 まさしくご都合主義のラノベ主人公ばりだ。


「グレン、イクトってあれニャ? パルくらい頭の悪い勇者だニャ?」


「そうだけど、パルシャの方が遥かに賢く良い子だぞ。あんなのと比べる事態、パルシャに失礼な話だ」


 パルシャの方がまだ俺達の話を聞き入れてくれるからな。

 イクトの場合、例えるなら大卒だけど社会人として不適合な新入社員並みに酷過ぎる。


 俺の言葉にパルシャは気を良くし、「わーい! パルよりアホがいるニャッ!」と喜んでいる。

 実際そうなんだけど、なんて低レベルな競い合いだと思ってしまった。


 けど冗談だとしても、仮にイクトが生きていたとしたら……いや今は考えるのはやめよう。



 そんな感じで会話をしながら、俺達は下層へと目指していく。

 何度か魔物と遭遇するもアムティアとパルシャの二人で瞬殺した。


 また斥候役であるルカも的確であり、可能な限り魔物との遭遇を避けたルートを割り出し進んで行く。

 伊達にロイド国王から司法取引で任命を受けた盗賊シーフじゃない。

やはり仲間にして正解だった。



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