第95話 イキるにも力が必要さ


イクトside



 ダンジョンから脱した僕は、そのまま冒険者ギルドに戻った。


 さも必死な形相で、「20階層でプラント・イーターに遭遇し襲われ、僕以外のパーティが全滅しちゃいました!」と伝える。

 無論、冒険者ギルド内では騒然となった。


「……ぼ、僕は逃げた方がいいっていったのに……リ、リーダーのユウジンさんが新記録レコードを目指すからって強引に……ひっく。おかげでみんな死んでしまいました、ぐすん」


 僕は泣きの演技を見せながら詳しく状況を説明する。

 とはいえパーティが不要なメンバーをダンジョン内に置き去りにすることなど、追放系や復讐モノのラノベじゃよくある展開だ。

 この異世界だってそういうことはあるに違いない。知らんけど。


「イキト、お前は悪くない。相手が悪すぎたんだ……まさか、プラント・イーターが潜んでやがったとはな。あの騎士団長め! 自分らの体裁のため、あえて情報を伝えなかったな!」


 ギルドマスターは俺の肩に手を添えて同情し、また依頼者の騎士団長に対し憤っている。

 これもユナの情報通りだな。

 おかげで怒りの矛先は依頼者側に流れたってわけだ。


「そもそもユウジンも悪いぜ。欲を出さず逃げりゃ良かったんだ」


「ああ自業自得だな。あの野郎、以前から傲慢で気に食わかったしよぉ」


「殴られていたイキトが可哀想だったぜ……」


「そうですね。イキトさん、よく逃げ帰ってくれました」


 他の冒険者や受付嬢も僕に同情的だ。

 彼らもユウジン達が僕を嘲笑い時に暴力を振るっていたのを傍で見ている。

 だから誰も僕が陥れたなんて気づくわけがない。


 とはいえ、どいつもこいつも急に掌を返して現金なもんだ。

 

(所詮はNPC……知能デバフかかってんじゃねーの?)


 っと涙を拭きながら、内心では呆れ嘲笑する。


 こうして僕は無罪放免となり、寧ろ「英断を下した雑用係」として称えられた。

 ギルドマスターの配慮もあり、回収した素材も全て唯一の生き残りである僕のモノとなる。


「本当にいいんですか? (当然だろ。とっととよこせ、コラ)」


「ああ勿論だ。ギルドとして危険に晒しちまった詫びと情報料もある。お前さんが受け取った方がパーティも報われるだろうぜ」


 回収された素材は680万Gとなり、詫び+情報料として100万Gを受け取った。

 合計で780万円が僕のモノとなったわけだ。


 ただしクエスト失敗には変わりない。

 冒険者の等級は変わらず、第七級のままだ。


「結構結構。そもそも僕はお金が欲しかっただけだからねん」


 僕は納得し、スキップしながら冒険者ギルドを後にした。



 それからユナと合流し、一泊だけ贅沢三昧することにする。

 この国一番の高級な宿に泊まり、豪華な食事を嗜む。

 それでも資金は大幅に余っているから問題ない。


「イクト様、凄いです! やれば出来るお方なのです!」


「うほほほっ! 僕ぅ何かやっちゃいました~ん!」


 ユナに全力で褒められ、つい有頂天になってしまった。

 念願だった膝枕もしてもらい、ようやく主らしくなったと思う。


「いやぁ、極楽だわ~。もうユナに乾杯」


「もっと頑張ってくれたら、もうちょっとだけ許してあげますよ。イクト様ぁ」


「ガチで!? おっし、頑張って城でも建てるわ~!」


 気づけば、僕はすっかりユナに夢中になっている。

 本当ならラノベ展開っぽく奴隷っ子を絆してやるつもりが、僕の方が絆されてしまっていた。


 まぁユナのおかげで、錆びれかけた気持ちを奮い立たされたのは事実だからね。

 いつか彼女が心を開いてエッチさせてくれるよう目指そう。

 それと今回のことを猛省し、しばらく娼婦館で遊びは控えるわ。


 あと一つ悟ったことがある。


 ――やっぱ異世界は力が全てだ。


 今の自分じゃ、他のNPC共に舐められっぱなしだと悟る。

 

(やはり力だ! 僕はなんとしてでも力を得なければならない! 誰にも舐められない見くびれることのない絶対的な力だ!)


 そう思うようになった自分は少しだけ成長できたと思う。

 けど決して真っ当なやり方じゃない……復讐者として闇落ちに近い方向だ。

 それでも構わない。


 イキるにも相応の力が必要なのだ――。


 次の日、僕とユナは目的地であるシズザン共和国へと向かう。

 そこに『魔発剄マハッケイ』使い武闘僧侶モンクことサンゾー爺さんが待ってくれているからだ。


「――なんだか運も味方してきたし、早く強くなってグレン兄ぃ達に復讐すんぞ。見てろ、コノヤロー」

 

 ギルドマスターの紹介で手配してもらった商人の荷馬車の中で、ユナに膝枕してもらいながら僕はそう誓っていた。



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