第94話 イクトぉ貴様ぁ!


イクトside



 戦闘開始してから束の間。

 パーティは全滅寸前まで追い込まれる。


 プラント・イーターの葉っぱが硬質の刃と化してブーメランのように飛び交い、さらに無数の蔦による鞭攻撃で、連中の武器を破壊し装備から肉体を無惨に切り裂いたのだ。


 結果、ユウジンだけが辛うじて動ける程度。

 他は瀕死の状態となり地面で倒れている。


 唯一、非戦闘員である雑用係の僕だけ無傷だ。


「イ、イキト、逃げるぞ! 俺と一緒に皆を担いでくれ!」


 血塗れのユウジンが叫んでいる。

 僕は素直に頷いた。


「ええ、リーダー。勿論、逃げますよ――ただし僕だけね」


「なんだと!?」


 思わぬ返答に拍子抜けした、ユウジンの表情。

 つい可笑しくなり、僕はフッと口端を吊り上げた。


「最初からこれを狙っていたんですよ。目的はあんたらが斃した魔物素材の回収と、それらの独り占め。あんたらの信頼を勝ち取り、こうして強い魔物をブッキングさせ全滅を狙ったわけっすわ~」


「んだと、テメェ! こんなことしてただで済むと思うなよ!」


「いや、ただで済むね。僕ぅ何かやっちゃってましたか?」


「な、何!?」


「そう――僕は何もしてない。あんたらの指示通りに雑用係としての使命は全うしています。ここまで来たのもリーダーであるあんたの判断、この魔物と戦ったのもあんたの判断、僕はあくまで助言と斥候役を果たしたまで。んで自分の命が危なくなったから逃げるだけのこと……これのどこか悪いんです?」


「だからって仲間を見捨てるのか!? それにこの魔物の実力を見や誤ったのはテメェだろ!?」


「は? あんたバカ? これまで散々蔑ろにしてきた連中がどの口で言ってんの? 受付嬢を始め他の冒険者も知っているっつーの。それに、そのプラント・イーターは第一級の冒険者達ですら誤認する魔力操作に長けた魔物さ! 七級の僕が間違えたって、『雑用係は仕方ない、全部押し付けたリーダーの責任だ』って感じになるしょ? そもそもあんたにはリーダーとしての素質がなかったってことじゃん!」


「イキト、テメェ!」


 するとプラント・イーターがユウジンの背後から迫って来た。

 蕾の部分が花開くように広がり、醜悪な顔を覗かせる。

 まるで鮫のような無数の鋭い牙が生えた悍ましき光景だ。


「うおっ、そろそろやべぇぞ……」


 十分に距離を置く僕でさえ、ドン引き後退りする。



 ぐっ。



 その時、何者かが僕の足にしがみつく。

 魔法士モーラだ。

 彼女は後方支援役であり、ユウジンの次に比較的ダメージが少ない。

 だからか、いつ間にか這いずってここまで近づいてきたようだ。


「なんだよ。離してくれ」


「……お、お願い、助けて……なんでも言うこと聞くから」


「ほう……言うことねえ」


 僕は改めて、傷だらけのモーラを見据える。


 こうして見ると顔は悪くない。ぶっちゃけ有だと思う。

 そして何より大人っぽくスタイルが良い。

 特に豊満な両胸は、ユナにないモノだ。

 

 だけどね……。


 僕はしゃがみ込み、モーラに顔を近づける。


「――生憎だが間に合っている。僕はユナ以外の女は信用しないって決めているんだ」


「え?」


 僕は護身用のナイフをモーラの背中に突き刺し引き抜いた。

 すると血飛沫を上げて、ぴくぴくと痙攣し始める。


「モーラぁぁぁぁ!? イクトぉぉぉ貴様ぁぁぁぁ!!!」


 ユウジンが涙を流しながら叫んでいる。


「そういやこの女、あんたのセフレだったな? だったら尚更、中古品なんてお持ち帰りするわけねーだろ。それともNTR展開がお好みだったか? エロゲーかよ、変態め」


「イキト、テメェは悪魔か!? 何故、こんなことをするぅ!?」


「何故っだって、ユウジン……いいだろう、冥途の土産とやらで教えてやるよ。僕はイキトじゃない、本名はイクト。元勇者さ」


「勇者イクト!? あの第二の魔王と言われた、破壊の勇者か!?」


 そんな風に呼ばれているの? ムカつくな~。


「まぁいいや。んじゃね、リーダー。有難く素材は頂くよん」


「イクトぉぉぉぉぉ――……うぎゃぁ!!!」


 ユウジンの頭部にプラント・イーターがかぶりついた。

 ぐしゃぐしゃっと咀嚼のような異音が鳴り響く中、僕は地上を目指し走り出す。

 他の連中も魔物達が食って綺麗に掃除してくれるだろう。


 こうして糞パーティを見捨てた僕は最善ルートでダンジョンを抜け出すのであった。



―――――――――――


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