第93話 せいぜい頑張ってね~ん


イクトside



 それからダンジョンの15階層まで到達した。

 ここまで来ると魔物も強くなり、ユウジン達も次第に苦戦するようになる。


「どうするの、ユウジン。そろそろ引き返す?」


 魔法士のモーラが訊いてくる。


「そうだな……イキト、どう思う?」


「うん、皆さんの力量をなら20階層まで行けるんじゃないかな? 確か、他の冒険者もそれ以上は到達した者はいないんですよね?」


「ああ、その通りだ。俺達全員はこのダンジョンの制覇を目指して集まった冒険者だからな……新記録レコードを目指すのも悪くないか。イキトがいれば可能かもしれない」


 そう呟きアタックを決意する、ユウジン。

 すっかり僕を信頼して功名心が疼いたようだ。


 こうしてユウジンの判断で、もうしばらくダンジョンを進むことになる。


 ――ククク、いい感じになってきたぞ。


 僕は先頭を歩きながら、密かにほくそ笑む。



 そこから未知のルートを歩んで行く。

 やはり益々魔物が強くなってきた。


 けど僕の魔力探知もあり、まだパーティ達の手に負える相手だ。

 何せ、こいつらの力量に合わせて魔物が出現するルートで進んでいるからな。


 無論、遠回りになるが「確実に進む最善の道」だと予め説明している。

 リーダーのユウジンや他の連中も、僕に信頼を寄せているので簡単に納得していた。



 20階層に到達した頃。


「……回復薬ポーションも底を尽きかけている。そろそろ潮時か」


「そうね。イキトの案内でここまで到達できただけ良かったんじゃない?」


「だな、モーラ。そういうことだイキト、引き上げ――」


 ユウジンが判断し撤退を呼びかけようとした時だ。

 洞窟の奥側から魔物が現れた。


 これまでの階層では見たことのないタイプ。

 太い茎に幾つも蔦や葉っぱが生えており、まるで植物に見える。

 頭部らしき部分は大きな蕾のような形であり、触手のような蔦がうねって軟体動物の如く移動して来た。


 ――プラント・イーターだ。

 ということは、あの植物っぽい魔物がダンジョンのボスということか。


(――なるほどね。情報通りだぞ)


 僕は魔物の存在を知っていた。

 情報源は奴隷っ子のユナからだ。


 彼女がバイトする飲食店は、国に仕える騎士団長のご用達の店であるとか。

 これまで騎士団長は、自分の部下の騎士達が手に負えない魔物や魔族の討伐を密かにギルドに依頼してきたそうだ。

 

 したがって今回のダンジョン探索も、その騎士団長がクライアントだったらしい。

 そして逃げ延びた部下の騎士達の話によると、20階層辺りでプラント・イーターらしき魔物と遭遇したことで壊滅寸前に追い込まれ撤退を余儀なくされたと報告が上げられていたようだ。


 ちなみに依頼する際、プラント・イーターの情報など冒険者ギルドに流れていない。

 何故なら騎士団長にも体裁があり、自分らが手に負えないからギルドに委ねたとは死んでも口に出させないからだ。

 したがってギルドには「騎士団は暇じゃないので、魔物が住み着いた洞窟を退治してほしい」という薄っぺら内容で詳細な情報が一切語られてなかった経緯がある。


 っと、看板ウェイトレスのユナに、酔っぱらってスケベ心を抱いた騎士団長から聞いた内容だ。



「何だ、あの動く植物は! 魔物なのか!?」


「にしては随分と魔力が低そうだけど……見たことない種類だわ」


 ユウジンとモーラ、それにパーティ達が怯え始める。

 僕以外の連中はね。

 ちなみに、こいつらはプラント・イーターの存在を知らない。


 プラント・イーターは魔力の操作に長け、よく低級魔物と誤認されることが多い。

 実際は上級に位置する超強力な魔物だ。


 え? どうして僕が知っているかって?

 勇者をしていた時に戦ったことがあるからさ。


 あの時は、エアルウェンの故郷とされる森ごと焼き払ってやったけどね。

 おかげでグレン兄ぃに酷くブチギレられ、エアルウェンからも無視されるようになったわけだ。


 なので微妙な等級の冒険者じゃ、まず遭遇することはない……ってか会った時点で食われてしまう魔物である。


 けど、僕は。


「――大丈夫です! モーラさんの言う通り魔力も高くない雑魚です! 襲われる前に斃すべきでしょう!」


 寧ろ嗾けてやった。


「そ、そうか! 見かけ倒しってやつだな!! 皆、こいつを斃してから撤退するぞぉぉぉ!!!」


 ユウジンは僕の言葉を信頼し武器を手にして、プラント・イーターに突進する。

 パーティ達も「おおう!」と威勢の良く声を上げながら後へと続いた。


 せいぜい頑張ってね~ん。



―――――――――――


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