第92話 初めてイキれたっすわ


イクトside



 雑用係の役割は戦闘に参加しない以上、斃した魔物を解体し素材の回収や斥候役がもっぱらだ。

 特に酷いパーティでは扱いが悪く、魔物を誘き寄せる囮役として使いパシリにされることもある。


 けど僕は、それをあえて逆手に取ってやろうと考えた。


「うん、それでいいよ。助かるよ……それとユウジン、実は僕は以前から他の冒険者より魔力探知に長けていてね。それでゴブリン相手でも見ただけで強さがわかってしまい、つい怖くてビビって逃げ出してしまったんだ」


「なんだと? ウチの魔法士よりもか?」


「ああ、きっと誰にも負けないよ。なんだったら試してくれてもいいからね」


 僕は提案し、パーティに所属する魔法士と「ザ・魔力探知対決」をすることになった。


 対決する魔法士の名はモーラ。第五級の冒険者である。

 眼鏡を掛けてさも知的美人そうで顔立ちに胸が大きくスタイルもそこそこだが、いつも僕を見下したような目で見やがる癖に、ユウジンの前では女の表情を浮かべるただの雌豚だ。


 受付嬢にも協力してもらい、併設する酒場のテーブルを借りる。

 他の冒険者達にも見守られる中、僕のテストが始まろうとしていた。


「ルールは簡単。テーブルの上に無数の小箱が置いてある。箱の中に微弱な魔力石が入っているから先に当てること。わかったな?」


 ユウジンの説明にモーラと僕は頷く。


「わかったわ」


「ああ、理解した。んじゃモーラさん、先でいいよ。当てちゃいなよ、ユー」


 僕の余裕ぶりに、モーラは「チッ、イキト如きが」と舌打ちしてテーブルの前に立つ。

 テーブルの上に幾つも無造作に置かれた小箱。

 その内の一つに向けて指を差した。


「……これかしら?」


「ブブーッ、ハズレだ」


 ユウジンは指定された小箱を取り出し中身を見せる。

 当然、中身は空だ。

 ちなみに、このテストは第三級冒険者以上の魔法士でないと言い当てることは難しい。

 第五級冒険者のモーラじゃ到底不可能だ。


「んじゃ、次は僕だね――はい、これぇ」


 僕は一瞬で見極め、魔力石が入った小箱を言い当てる。


「……当たりだ。マジかよ」


「偶然だと思うなら、何度でも試してくれよ」


 僕が言うと、ユウジンやパーティ達から交互に同じテストをさせられる。

 時には小箱に魔力石が入ってない時もあり、それすらも的確に言い当ててやった。


 次第にそれまで茶化していた周囲の冒険者達や受付嬢までもが沈黙し唖然としている。

 対戦者だったモーラ、そしてユウジンも含めて。


「……す、凄いわ。魔力探知だけなら第一級冒険者並みよ」


「こ、こいつ……ガチだ。イキト、今までどうしてこんな能力を隠していたんだよ?」


「え? 僕ぅ、何かやっちゃいました~ん(てか、今まで長所だって忘れていただけだけどね)」


 なんだか異世界に来て、初めてまともにイキれたような気がする。

 ようやく異世界系主人公っぽくなってきたわ(笑)。


 こうして僕の才能が認められ、再びパーティに加入してもらった。



 その後、魔物が住み着く洞窟ことダンジョンへと潜入する。

 大体はラノベやゲームのような雰囲気の洞窟だ。

 なんやかんやで30階層まであるらしい。


 雑用係の僕は斥候として先頭を歩き、遭遇した魔物の力量を見極めてパーティ達に知らせる。

 戦闘には一切参加せず、斃した魔物を解体して素材になりそうな部位だけを回収していった。


 どの作業も第三級冒険者だったグレン兄ぃの動きを見て模倣してみる。

 しかし思いの外、リーダーのユウジンを含むパーティ達には好評だった。


「……イキトの奴、剣士としては無能だったが雑用係としては有能じゃね?」


「素質があるわ、きっとプロとしてやっていけるんじゃない?」


 褒めてくれるのは嬉しいけど、僕も内心じゃ「誰がこんな不遇職なんてやってられっか、バーカ!」と思っているのでどうでもいい。



 それから順調に進み、これまで到達したことのない第10階層へと到達した。

 不意にユウジンが僕に声を掛けてくる。


「イキトが見定めてくれるおかげで、特に苦戦することなくここまで来たか……なぁイキト」


「なんだい?」


「……殴って悪かったな」


「リーダー、どうか気にしないでください。さぁ先に進みましょう」


 僕はニコっと微笑み、斥候として先頭を歩く。

 内心じゃ「今に見てろよ、糞共が……」と思っているけどね。



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