第91話 ぽくぽくぽく――チン!


イクトside



 奴隷少女のユナと夕食と摂ることにした。


 馬小屋暮らしから抜けだせないも食べる物には困らない。

 何故ならユナがバイト先の飲食店で看板娘となり、今じゃ僕より稼ぎが良かったからだ。


「イクト様、美味しいですね」


「うん、ユナがいてくれて良かったよ。いやマジで」


 今の僕はぶっちゃけ奴隷っ子のヒモ状態だ。


 このまま七級冒険者として真面目に働いてもうだつが上がらない。

 ずっと貧乏生活のままだ。


 何とかしなければと思い始めた時。

 ふとユナが、こんな事を言い出した。


「――私ね。イクト様のこと少し誤解していました」


「何がだい?」


「……最初に出会った時、もう少し強かでズル賢い方かなって思っていましたけど、冒険者としては真っすぐ取り組まれているなぁって。私は嫌いじゃないですよ」


「ありがとう、ユナ。でも未だ七級の底辺さ。おかげで大した稼ぎにならず旅にすら出られない……ん?」


 つい自分で話していて、僕は首を傾げてしまう。


 あれ? なんか可笑しくね

 だって、僕は今まで何を真面目に冒険者やっているんだ?

 大した稼ぎにならないと知っている癖に……。


 これじゃまるで人生を諦めた社畜みたいじゃないか?

 ひょっとして、いつの間にか今の暮らしに満足してしまったのか?


 いつもの僕なら、もっとがっついて自分のやり方を貫いている筈だ。

 僕は何を負け犬のまま定着している?


 にしても、まさか奴隷の子に諭されるとは――。


「……ユナ。僕に何を期待している?」


「そうですね、私はイクト様が決めた道を否定せず肯定しながらついていきます。貴方様の承認欲求を満す奴隷として……最初からそういうお約束だったでしょ?」


 そうか。そうだったな……。


 何もカッコつける必要はない。

 僕らしく異世界を堪能すればいいんだ。


 大好きな異世界転生モノのラノベやゲーム世界のように!


 僕は必死で起死回生の道を考え始める。

 異世界に召喚されて周りから「愚か者」とか言われるけど、元いた日本じゃ成績はトップだった。

 だから決して地頭は悪くないぞ!



 ぽくぽくぽくぽくぽく(思考を巡らしている効果音)……――チン!



「そうだよ! 最初から正攻法じゃ駄目だったんだ! こうなりゃ復讐者らしく、斜め上の王道を攻めてやんよ!」


 僕は状況を打破する方法を思いついた。

 それは自分の長所を最大限に活かす方法だ。


 僕には以前から《恩寵能力ギフトスキル》こと《無尽蔵超魔力インイグゾースティブル》に含まれる特技があった。


 ――魔力探知。


 それは生物や物質に宿る魔力量を見定め推し測る能力だ。

 無論、ゲームのような数値化などされず大抵は魔力オーラの量で目測する。

 魔力オーラが多いほど強い力が宿されているわけだ。


 この異世界は多かれ少なかれ何かしらの魔力が宿っている。

 一流の戦士も魔法が使えないだけで、鍛え上げた分の実力が魔力として漲っている。

 だから常人離れした筋力や耐久力があり、ゲームのような必殺技も打てるってわけだ。


 ただし魔法が使えない者の魔力探知は至近距離でなければ難しい。

 また熟練した戦士ほど魔力の制御ができていた。


 さらには異例の連中も存在する。

 それは婚約者のアムティアと師匠であるグレンだ。


 あいつらだけは魔力を正確に見ることができない。

 まるで魔力を持たない小動物並みに見極めるのも難しかった。


 おそらく普段から何かしらの制御を行っているに違いない。

 特にアムティアに関しては、戦闘時に魔力を別の力に変えて肉体を強化させ、また体外から放つことができる。

 確かグレン兄ぃから学んだ「竜気」と「竜波」だとか。

 

 まぁ今はどうでもいいや。




 それから三日後、冒険者ギルドにて。


「――ユウジン、頼む! 僕を雑用係として、もう一度パーティに入れてくれないか!?」


 僕は他の冒険者や受付嬢がいる前で、リーダーのユウジンとパーティ達の前で土下座して頼み込む。


 不遇職として誰もやりたがらない雑用係。

 しかも剣士からの職種変換ジョブチェンジだ。

 会社で言えば出世コースから外れた窓際族への降格に近いノリだろう。


 思わぬ提案と周囲の目もあってか、ユウジンも「うむ」と考え始める。


「……わかった。戦闘に参加しなければいいぜ。それと雑用係である以上、報酬は半分だからな」


 奴の言葉に、僕は密かにニヤリとほくそ笑む。



―――――――――――


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