第90話 挫折ぎみのイクトさん


イクトside



 それから二人で食事を取ることにした。

 馬糞臭く食欲が湧かないけど仕方ない。


 ユナは奴隷小屋での経験よりマシだと、まるで気にしていない様子だ。

 この子はガチでたくましい。


「そういえばイクト様、バイト先で『竜撃パーティ』という冒険者達が活躍していると聞きましたよ」


 竜撃パーティ? 

 そういや冒険者ギルドでも何かと話題になっていたっけ。

 なんでも魔王軍の幹部を何人も斃しているという噂だ。


「……まぁ、ラグロン大陸を代表する勇者パーティが解散した途端、そういったハイエナみたいな連中が現れるんだろうね」


 ちなみに僕は追放された後、嘗ての仲間達がどうなったのか知らない。

 おそらく第五王女であるアムティアのコネで、連中は普通にスローライフを送ってやがるのだろう。

 あるいはグレンのタコがハーレム展開を満喫してやがるかだ。


 糞ッ、ムカつく!

 今に見てろよ!


「ハイエナでも名が売れて評価されているのも事実ですよ。第二の魔王と恐れられた元勇者が、あんな大量虐殺なんてしなければね……」


「――僕はやってない!」


「イクト様?」


「いやなんでもない……」


 危ねぇ、ついぶっちゃけるところだったわ。

 僕は自分が元勇者だとはユナに話していない。


 本来なら「実は俺~」ってな感じでイキろうと思ったけど、彼女と親交を深める中でシャレにならない事態が発生したからだ。


 それはユナの出身国がイクトが被害を出してしまった某商業国だったということ――。

 つまり、半分は僕のせいでユナは戦災孤児となり奴隷になったようなものだ。


 流石の僕も言うに言えず口を閉ざした経緯があった。


「……と、とにかくだ! まずは路銀を稼がなきゃ……ジズザン共和国に行き、僕は新たな力を身に着けてやる!」


「イクト様、根拠のない謎の自信はアレですけど、意気込みだけは尊敬しています」


 すっかり僕の承認欲求を満たしてくれるユナ。

 この子がいるから、まだ頑張れるなぁと思う。




 次の日 冒険者ギルドにて


 今日も『竜撃パーティ』とやらの話題で持ち切りだった。

 勇者パーティ以外の冒険者が魔王軍の最高幹部を斃したのだから尚更だ。


 しかし忌々しい連中だ。

 本来なら勇者である僕に賞賛が集まる筈だったのに!


 それとムカつくことが、もう一つ発生した。


「――イキト。お前など真の仲間じゃない。もう近づくなよ」


 など、さも追放と言わんばかりの台詞を吐かれたのだ。

 他の仲間達も「当然だ、バカめ!」と怒鳴っている


 このままでは七級冒険者のクエストしか受けられなくなってしまう。 

 ちなみに、ここの地域の低級魔物は狩り尽くされており、洞窟(ダンジョン)に住み着く中級から上級の魔物を斃し高額報酬を狙うしかない。


 でなければ薬草の採取とか村の農家の手伝いなど日雇いバイトのような仕事ばかりになる。

 報酬も低く、その日の食事がなんとかなるか程度。

 とても路銀を貯蓄して旅立つことは不可能だ


(……ユナに内緒で、娼婦館で遊びまくったのが失敗したか)


 以前、稼いで浮いた金も調子に乗って使ってしまったからな。


「頼むよ、ユウジン! もう一度だけ僕にチャンスをくれよ!」


「うるせぇ、イキリ野郎が! まとまりつくんじゃねぇ!」



 ガッ!



「ぶぎゃ!」


 しまいにはユウジンに顔を殴られ、僕は床に倒れ伏せた。

 パーティ達だけじゃなく、他の冒険者にまで無様な姿を見られ「だっせぇ野郎だ!」「情けねえなぁ! ガハハハ!」っと嘲笑されてしまう。


「いいか、イキト! 二度と俺達に近づくんじゃねぇぞ!!!」


 ユウジンは僕に唾を吐き捨て仲間達と去って行く。


 僕は蹲り、奴らの背後を恨めしく凝視した。


 クソ! クソォッ!! クソォォォ!!!


 どうして僕がこんな目に遭うんだよ!?


 だからこそ余計に憎いんだ……。

 それはユウジン達だけじゃない。


 今頃、のうのうと暮らしハーレムを満喫しているグレン。

 僕の元婚約者であり裏切ったアムティア、エアルウェン、リフィナ。


 奴らも含めてだ……ちくしょう――!


 僕の憎悪が限界まで蓄積されていく。



 馬小屋に帰宅後。

 ユナが僕を出迎えてくれる。


「イクト様、その顔はどうしたのです!? 傷だらけですよ!」


「この程度のかすり傷で大げさだな……」


「かすり傷!? い、いや、めちゃ鼻と口から血が出ているのに、す、すごい……!」


 ユナは僕のイキリっぷりを目の当たりにして、別の意味で驚愕した。



―――――――――――


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