第88話 何も泣くことないだろ?
三日後。
旅立つ準備を終え、俺達はワイネア国を出ようとする。
するとジャンナが気を利かせたのか、通り道で民達が集まり俺達の旅立ちを称えてくれた。
「ありがとう、竜撃パーティ!」
「復興したら、是非に立ち寄ってください!」
「本当に感謝しています! 皆様どうかお元気で~!」
まるで新たな門出を祝うかのように感謝の言葉を投げかけられる。
俺達のパーティに勇者はいないけど、なんだか勇者パーティに戻った気分だ。
などと感傷に浸っている中、アムティアとエアルウェンとリフィナの三人が何故か涙を流している。
唯一、パルシャだけが「おーっ!」と元気いっぱいに両手を掲げ応えていた。
「おいおい三人とも、何も泣くことないだろ? どうしたんだ?」
「い、いえ師匠……なんだか嬉しくて、つい感極まり、ぐすっ」
「だってぇ……イクトくんがいた時じゃ、絶対にこんなシチュエーションあり得なかったもの」
「……寧ろ、みんなから石を投げられていたくらい」
そ、そういやそうだったな……。
最悪、夜逃げするみたいにこっそり国を出ていたっけ。
門の前に行くと、王女として正装するジャンナと共に戦った騎士達が整列している。
「ジャンナ……いえ王女ですね」
「呼び捨てで構いません、竜戦士グレン」
「そうか……しかし大変な時期に色々気を遣わせてしまったね」
物資不足だというのに食料から
「いえ、国を救った英雄達への義理を果たしたまでのこと。どうか気をつけてください」
「ありがとう……そっちも復興頑張れよ」
「はい。その際はおもてなし致しますので、必ず立ち寄ってください。ではご武運を――」
ジャンナが挨拶すると騎士達も剣を抜き上空に翳し敬意を見せてくる。
少し面映ゆく感じながらも、俺達はワイネア王国を後にした。
「師匠、次の行先はどこにいたしましょう?」
移動中、アムティアが訊いてくる。
「ああ、まず魔王軍に侵略されていない冒険者ギルドに立ち寄り、ヘルディンの角を売ろうと思っている。そろそろ
「『黄金鉢のアーク』ですか……しかし居場所がわからぬのでは?」
「俺達にはこれがある」
そう言い、懐から手の平サイズで長方形の物体を取り出し見せた。
――スマホだ。
だが地球のソレじゃなく、勇者達が互いの情報を共有するコミニティツール用だけどな。
「なるほど、他六大陸の勇者から情報を聞き出すというのですね?」
「ああ、既読を読む限り、既に何人かの勇者パーティがラグロン大陸に上陸しているらしい」
「なんと本当ですか!?」
「本当だ……意図は不明だがな。それに俺は勇者じゃないからか、メッセージを書き込んでも連中から無視されている。もっぱら六人の勇者同士のやり取りを眺めることくらいしかできない。つまりトークに参加させてもらえないんだ」
「女神マイファから何も聞かされてないのでしょうか?」
「他の大陸にレシュカ教皇のようなお告げを聞ける者がいないのか、イクトの不始末ぶりで、あえて除け者扱いされているのか……俺としては後者だと思うけどな」
それに勇者達は競争意識が高い。
誰が真っ先に魔王を見つけ斃すのか、まるで討伐ゲームだ。
さらに勇者の中にはイクトのようにゲーム感覚の者であったり、使命として全うしようとする者など個性豊かな部分も垣間見える。
「ではどうするおつもりで?」
「直接会う。幸い、このスマホには互いの位置が特定できるGPS機能もどきが搭載されているからな。最も近くにいる勇者から当たろうと思う」
「ジ、ジィピィ?」
「ああ、そうかすまん……まぁこの魔道具を通して互いの位置が割り出せる魔法のようなモノだ」
異世界人のアムティアではわからない用語だったな。
こうして俺達の次に目的がはっきりした。
果たして勇者達がどんな情報を持っているのかわからない。
そして素直に共有してくれるとも限らない。
特に勇者不在の俺達パーティを同等と見てくれるか怪しいものだ。
またイクトのせいで、貧乏くじを引きそうな予感がする……。
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