第86話 極限の竜牙突だ!



「フン、竜戦士が! 元々失っている腕を斬ったくらいでいい気になるなよ! 血液さえ残っていればいくらでも生えるんだよぉぉぉ!」


 ヘルディンは流れる血液を利用し、再び左腕を生成し長剣化させ襲撃してくる。

 あの刃に触れるだけでも業火の炎に包まれてしまう、ある意味魔剣並みの効果を持つ。


 だが奴も皮膚の色が真っ青になり息が荒い。明らかに血を流し過ぎているからだ。

 したがってヘルディンも限界に達している。


「――やはりここで斃す!」


 俺は迅速に判断し、竜眼を再起動させた。

 するとヘルディンの左腕が扇のように大きく広げられ網の目ネット状に変化する


「我が《雹と炎魔法ヘイル・ファイア》は触れるだけでも人体を燃やし尽くす! この状態で躱せるか竜戦士!? いくら回避能力が高かろうと、バケモノ並みの速さを持っていたあの女勇者ならまだしも、貴様ではその域まで速く動けるわけがなかろう!」


 そう叫びながら同時に右手の指先を向け、例の雹弾で狙い撃とうと掲げた。


「成長したなヘルディン……その執念認めるよ。だが回避するだけが竜戦士じゃない」



 コゥゥゥオォォォォォ――!



 呼吸法を繰り返し体内に練られた竜気を高速に循環させる。

 そのサイクルは体外から解き放つ爆発的な竜波へと展開されていく。


 俺は左腕を上に翳し、迫り来る網の目ネットに掌を向けた。


「――爆竜波バクリュウハ!」



 ドゥォォォォン!



 触れた瞬間、掌に蓄積された竜波が弾け、激しい爆音と共に破裂する。

 その衝撃波は凄まじく、瞬時に網の目ネットを粉砕した。


 だが血液に触れてしまったことに変わりなく、俺の左手は炎に包まれた。

 猛火は上腕から二の腕まで燃え移り、このままだと全身に達してしまう。

 まるでウイルス感染のような浸透力だ。


「ぐっ、大ダメージだが竜気と竜波で耐熱をコーティングしているから左腕が燃え尽きることはない! それにまだ右腕が残っているぞ!」


 激烈な熱さを意に介さず、呼吸法でより竜気を高める。


「――竜牙突リュウガトツ!!!」


 極限まで昇華された瞬速の突きが、ヘルディンの心臓を貫いた。

 奴が吐血する前に刀剣を押し込み、握っていた柄を離す。


「がはっ!」


 そのままヘルディンは大の字で倒れ吐血する。

 完全に命脈を絶つ一撃であり勝負は決した。


 しかしこのまま胸に刺さった刀剣を今抜いてしまうと、血が噴き出して浴びてしまう可能性がある。

完全に消滅するまで放置した。


 もう尋問する時間はないだろう。


 俺は戦闘モードを解くと、蝕むように全身を這っていた黒い血管が消失する。

 残り3秒か……危なく《呪われし苦痛カース・ペインの激痛に襲われるところだった。


「ま、まさか……竜戦士にも負けるとは……わ、私は弱かったのか?」


「いやヘルディン、お前は強かったぞ。最後、左腕を捨てる覚悟が無ければ危なかったと思う」


 俺は焼け爛れた左腕を見せる。


 竜気と竜派により炎を消しダメージを最小にしたが、それでも損傷が激しくほとんど動かすことが出来ない。

 皮肉な話、《呪われし苦痛カース・ペインで痛み慣れしているから平然としているようなものだ。


「そ、それでも私が負けたことに変わりない……人族に二度もだ」


 ヘルディンは愚痴を零しながら、何故かフッと笑みを零す。

 その表情は言葉とは裏腹に全て出し切ったと、どこか満足気に見えた。

 刀剣が突き刺さった胸部から全身にかけて浸食するかのように黒色に染まり、やがて身体から亀裂が走り崩れ落ちる。


 命の灯火が消え、最後は奴の両角だけが残った。


「俺は同じ人族として怨敵である魔族を称賛し褒めることはしない……だがヘルディン、お前の強さへの執着と成長だけは敬意を払うぞ」


 そう呟き床に刺さっている『竜月』を引き抜いた。



 かくして。


 魔王軍の最高幹部「七厄災」こと『雹炎ひょうえんのヘルディン』を打ち倒したことでクーデターは終わりを告げる。


 統率者を失ったことで魔族兵と魔物兵は統制が取れなくなり、大半はジャンナ達に討ち取られ中には逃走してワネイア国から出て行った連中もいたようだ。


 俺達、竜撃パーティは全員が勝利したものの、待機していたリフィナ意外は全員何かしらのダメージを負い結構ボロボロだった。



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