第85話 わしゃ炙り魚か!?



 竜撃パーティ達が苦戦しながらも勝利を収めている中。


 この俺グレンと雹炎ひょうえんのヘルディンもまた死闘を繰り広げていた。


「――くらえ、竜戦士! 《雹と炎魔法ヘイル・ファイア》!!!」


 ヘルディンは左腕の義手こと血液交じりの雹(といってもほぼ氷の塊)で固められた槍を変幻自在に操り、俺に斬りつけてくる。


 回避したと思った途端、右手の指先から拳銃のように血液の「雹弾」を撃ってきた。

 その弾丸を躱す度、着弾した周囲から激しい炎が噴き荒れる。


 また下手に刀剣で受け止めようとするものなら、刀身まで炎に包まれてしまうので回避行動を取るしかない。


 おかげで軽度の火傷を負ってしまっていた。


「クソッ、熱ちぃな! 炙ってんじゃねーよ! 俺は炙り魚か!」


「その皮膚に張り巡らせた血管、《呪われし苦痛カース・ペイン》か? 噂通り嘗ての魔王ディザーク様が施した呪いだな……にしても何故動ける?」


「お前が今の魔王と魔王城のことを喋ってくれるなら教えてやるよ」


「これから死ぬ者に教えても無駄だろ?」


 ヘルディンは雹弾を回避した俺との距離を詰め、義手の槍を戦斧状に変化させ強襲を仕掛ける。

 接近戦に特化する卓越したコンビネーション。


 勇者ナギサに敗北してから戦闘スタイルを一変さえている。

 20年前はただ自分の血液を広範囲に散布して、いたずらに炎で辺りを焼き尽くしていただけに変貌ぶりに少しだけ驚いていた。


「だが、あくまで少しだ。コォォォォッ――竜眼ッ!」


 俺の瞳孔が赤く染まっていく。

 漂う竜脈の流れを乱す形で、ヘルディンの攻撃が予測できる。


 約1秒後――義手攻撃を躱したカウンターで一撃与えられそうだ。


 俺は導き出された最適解に乗っ取り、奴の攻撃を躱し切り『竜月』を振るう。



 斬ッ!



「なっ!?」


 左腕の根本から義手を叩き斬り両断してやる。 

 切り口から鮮血が飛び散るも、俺は浴びないよう予めバックステップで回避した。


 同時に『竜月』に秘められた魔剣効果でヘルディンの精神を一時的に奪うことに成功する。

 奴は身動きが取れなくなり、その場で立ち止まった。

 意識が混濁し白目を向いている。


「30秒だ。俺の問いに答えるよう精神を調整している――早速だがヘルディン、今の魔王はどんな奴だ? 魔王城の在処は?」


「……わからない。何も知らされていない」


「なんだと? 嘘を……いやこの状態で虚を言える筈がない。質問を変えよう、お前ら『七厄災』は今の魔王によって集められた最高幹部じゃないのか?」


「……最高幹部ではあるが、魔王様によって集められたわけじゃない」


「じゃ誰だ?」


「……導き手」


「はぁ? 勇者の『導き手』だと?」


「……違う、魔王の『導き手』。陰で魔王様と魔王軍を支える立場のお方」


 なんだと!?

 魔王側を導く奴が存在していたというのか!?

 知らなかったぞ!


 これまでそいつが仲介に入り、周期ごとに新たな魔王や残党を束ねていたというのか!?

 なるほど……だから、こいつらはどんなにバラバラとなっても都合よく集結して迅速に軍を束ねて侵略に移すことができたってわけだ。


「その魔王の『導き手』はどんな奴だ?」


「……私はわからない。役目上、決して表舞台に出る方ではないからだ……だが奴なら知っているかもしれん。我ら『七厄災』の中心格……唯一、『導き手』と通ずる魔族」


「七厄災のリーダー的ポジか? 誰だそいつ?」


「……『黄金鉢のアーク』」


「アーク? 聞いたことのない魔族だ……それで、そいつはどこにいる?」


 俺が訊ねた直後、ヘルディンは身体を大きく痙攣させた。

 白目を向いていた瞳孔がギュンと動き元に戻る。


「はっ!? 私は何を……竜戦士、私に何をした!?」


 クソッ、もう30秒経ったか。

 しかしヘルディン自身は今の魔王に関して何も知らないことがわかったぞ。


 唯一、知ってそうなのは「黄金鉢のアーク」という最高幹部のリーダーらしき魔族だということ。


 もう一度、ヘルディンの精神を奪って、そいつの居場所を聞き出すか?

 腕輪の効果が切れるまで残り40秒か……微妙だな。


 以前ならまだしも、今のヘルディンは強い。

 キルするのは容易いが生かすのは至難の技だ。

 俺自身のタイムリミットが迫っている以上、もう尋問する余裕はない。


 ここまで聞き出しただけ、今回は良しとするべきか……。



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