第83話 矢印のワンタト戦



「……おまっ、いきなり何を言っているんだ? 戦闘中だぞ、おい!」


 ワンタトはツッコミながら、敵の魔法士エルフが心理戦を仕掛けているのかと勘ぐった。

 しかし上空に浮いている、エアルウェンの表情は至って真顔だ。

 

「――お姉さんね。これまで恋愛に一切興味なかったけど……素敵な男性が現れて恋しているの。こんな気持ち初めてなのよ」


 エアルウェンの言葉に、攻撃しながらワンタトは「は?」と首を傾げる。


「いや、今関係ないだろ? お前マジ、頭大丈夫か? (このエルフ女、なんかヤベぇ……)」


「坊やには、まだわからないわ。いえ永遠にわからないでしょうね……だって、お姉さん。これから無茶するから――キミと決着をつけるため本気を出すわ!」


 そう言って微笑を浮かべた直後、エアルウェンは《防御結界魔法ガードバリア》を解除させた。



 ドドドドド――ッ!



「うっ!」


 予想通り、全身に5発の魔法弾の直撃を受ける。

 が、刹那――エアルウェンの姿がフッと消えた。


 その光景に、ワンタトは動揺し始める。


「なんだと!? だがいくら魔法で姿を消そうと、《矢印照準魔法アロウエイミング》の効果は生きているぞ。追跡可能だ、バカめ!」


『――そうかしら?』


 エアルウェンの声。

 肉声ではなく思念により、ワンタトの脳内へと響いてくる。


「エルフ女か!? どこにいる! (矢印はまるっきり動いていない。つまり移動してないことを意味する。姿だけ消してやり過ごす魂胆か?)」


『通常の姿を消すだけの魔法なら優れた技量を持っても魔力探知されてしまうか、また絶対である《特異改良魔法ユニークマジック》能力であっさり見破られてしまうかでしょうね』


「どういう意味だ?」


『でも《特異改良魔法ユニークマジック》同士なら性質や相性によるんじゃないのって意味よ』


「……まさか、お前も《特異改良魔法ユニークマジック》を持っているのか?」


『少し違うかな――隠密のビャンナ。聞いたことない? 坊やと同じ魔族で子爵だったらしいけど』


「ビャンナ……ソルダーナ国で冒険者相手にヘマした奴か? ま、まさか……お前らが!?」


『そっ。あの子の《特異改良魔法ユニークマジック》、《隠密行動魔法ステルス》はお姉さんが頂いたわ。今それを使用中よ。けど防御魔法と同時に発動できないから、解除した途端、5発も攻撃を受けてしまって物凄く痛くて切ないわ……』


「だから何だ! 同じ子爵クラスだからって、ボクの《矢印照準魔法アロウエイミング》がお前を捉えているぞ!」


 ワンタトは掌から魔力弾を発射する。

 矢印に沿って高速に軌道を描くも防がれた形跡もなく素通りしてしまう。

 魔法弾は天井に接触し内壁を破壊すだけだった。


「なっ! そこにいないだと!?」


『《隠密行動魔法ステルス》は、あらゆる自分の存在要素を完璧に消す魔法よ。その《矢印照準魔法アロウエイミング》は坊やが目視、あるいは魔力探知して矢印を張り付けるとかの魔法でしょ? だからこっちに分があるってわけ。熟練された竜戦士のグレンくんでさえ、攻撃直前でなければ見切ることは不可能だったわ……経験不足の坊やじゃ無理ね』


「くっ! だから何だ、このまま逃げようってのか!? (いや、それはない。エルフ女は決着をつけると言った。この状況でブラフはあり得ない。必ずボクとヘルディン様の合流を阻止するため仕掛けてくる筈だ。魔法攻撃なら、その瞬間で探知して位置が特定できる……すぐさま、《矢印照準魔法アロウエイミング》で矢印の方向を変えてカウンターを決めてやる!)」


 ワンタトはあえて悔しそうな素振りを見せ、思考を巡らせていた。

 そして自分の周囲に複数の矢印こと《矢印照準魔法アロウエイミング》を呼び寄せ防御姿勢を取る。


『坊やなら、そうすると思ったわ――もう、お姉さんの勝ちよ』



 ヒュン



 突如、何かが飛翔した。


「――がっ!?」


 それはワンタトの額を穿ち刺さる。


 一本の矢だ。


「通常の矢よ。この距離なら矢印を掻い潜ってヒットさせるくらいワケないわ」


 真正面から約20メートルほど離れた距離。

 すうっと輪郭を帯び始める人影があった。



―――――――――――


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