第82話 恋をしているからよ
弟子入りしてから100年後。
エアルウェンは努力の末に魔法士となった。
師匠として慕っていた魔法師は老衰で永眠し、現在は魔法学連協会の本部長シジン・ロードの部下として身を寄せている。
魔法士となって50年の歳月が流れた。
人族としてはベテランの域だが、エルフ族にとっては若輩者である。
それでも高い実力が認められ、一年前には選抜された魔法士として勇者パーティに参加した。
しかし、肝心の勇者イクトがイキリまくり暴走化し、とんだ貧乏クジを引くことになる。
その頃のエアルウェンはイクトのことをそこまで嫌いではなかった。
正直、どうでもいいとさえ思っている。
何故なら、イクトも所詮は人族。
彼女にとって短い付き合いだろうと割り切っていたからだ。
しかし、どうしても許せないことが二つほど発生した。
一つはイクトが魔王軍をオーバーキルしてしまい、彼女の故郷であった森を焼き払ってしまったこと。
幸いエルフ族の仲間や長老は避難し、その後はフォルセア王国が責任を取り新しい森を提供して平和に暮らしている。
最も許せないのは、イクトの度々イキりまくった言動と態度にあった。
◇◆◇
低級魔物に対し魔法攻撃でオーバーキルした後。
イクト「……なんだ、これ? 威力強すぎだろ? (自己陶酔的なイキリ)」
エアルウェン「イクトくん。お姉さん、もう少し魔力をコントロールした方がいいと思うわ(毎度、森や建物を焼き払って加減を知らないのかしら、この子?)」
イクト「エアルウェン、魔力操作が可笑しいということは魔法が弱すぎるって意味だよな?」
エアルウェン「違うわ。被害を見なさい、終焉の炎で焼け野原よ。だからセーブしなさいって意味よ(バカなのかしら?)。導師と呼ばれるシジン様だって周囲の状況を見ながら、力を加減するわ」
イクト「……なんだ。この世界の魔法使いはこんな事も出来ないのか? (イキる僕って超カッケェ~! 『す、凄いわ!』と称賛し、そのたわわな両胸で僕を包んでおくれ! 10回はイケるよ~!)」
エアルウェン{は? もういいわ、さよなら(こいつクズね。私の胸ばっか見て、まるで言葉が通じない……ケダモノ以下)}
こうして自分が信じる魔法どころか、尊敬する上司まで侮辱されたことで、エアルウェンはイクトを大っ嫌いになり口を利かなくなった。
◇◆◇
(勇者は大ハズレだったけど、パーティ自体は最高ね。これまでわたしが組んでいたメンバー以上よ。特にグレンくん……彼は本当に素敵)
尊敬するシジンの仲間であり色々な意味で推されている竜戦士。
これまで人族の男に興味がなかったが、エアルウェンの評価は高かった。
世界を守護する竜戦士の権威とその強さだけでなく、冒険者としての豊富な知識に加えて的確な判断力。
常に周囲を気遣い和ませる人格と熱く仲間思いの一面などに触れていくうちに、気がつけば異性として惹かれている自分に気づく。
(片思いのアムちゃんの手前、気持ちを抑えているけどね。でもつい本気になっちゃいそう……)
常にそう思う、エアルウェン。
750年間生きて初めて恋に落ちていた。
「何をニヤついている、エルフが! 死ね、死ね、死ねぇぇぇい!」
現在、ワンタトは怒声を発し尚も魔力弾を撃ち放っている。
先程まで無邪気な少年とは裏腹に、口調が一遍し気性も荒くなっていた。
「……何を熱くなっているの? こういうのは先に素を見せた方が負けよ、坊や」
「坊やじゃない! ワンタトだ! 生まれてから10年、同世代の低級魔族達と違いボクには才能があるんだ! 最年少で爵位を与えられたのがその証だ!」
「可哀想に挫折を味わったことがないのね……お姉さん、750年も生きていたけど、挫折のしっぱなしよ。特に今じゃ最悪度MAXね……勇者がハズレだったばかりに借金1000億Gも背負わされているわ」
「知るか、んなもん! 戦闘中に関係あるか!」
「そうね。でもね、お姉さん……不思議に今が生きてきた中で最も充実しているの。何故だと思う?」
「知らねぇって! お前、いい加減にしろよ!」
「――恋をしているからよ」
「は?」
戦闘中、敵の魔法士エルフから突拍子のない恋バナに、必中のワンタトは唖然とした。
―――――――――――
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