第81話 エルフ姉さんの過去



「クソッ! だがお前だって攻撃できないだろ!? 防御と攻撃は同時にできない、それが魔法士の弱点だからだ!」


 決定打のないワンタトが次第にイラつき始める。

 

 対するエアルウェンは大人の余裕を見せ軽く笑みを零す。


「……そうね。さっきの先制攻撃も、その矢印を向けられて軌道を晒されて危なくカウンターをもらうところだったわ。《矢印照準魔法アロウエイミング》だっけ? 魔法士にとって非常に厄介な能力ね」


「今の魔法は昔と違い詠唱は不要になった――が、相手を殺せる強い魔法ほど予備動作が必要となる。それでもほんの1~2秒だけどね。しかし戦場じゃたった数秒が命取りとなるよね?」


「ええ。だから正直、どう決着をつけようか迷っているわ。節約しているとはいえ、これだけの《防御結界魔法ガードバリア》、そう長く維持できないもの。かと言って防御を解いて反撃しようとなれば、即蜂の巣ってところかしら」


 そう、エアルウェンも防御のみで攻めることができない。

 ある意味で膠着状態が続いている。


「ハハハ、その通りだ! お前はもう摘まれているんだよ!」


「まだ摘まれてないわ。それに勝算はいくらでもある……どれにしようか、お姉さん迷っているところよ」


「くっ、強がりばかり言いやがって! 死ね、死ねぇぇぇ!!!」


 ワンタトは魔力弾を放ち続ける。

 あえて地上で強力な魔法を撃たないのは、彼とて魔力消費を恐れているからだ。

 したがって連続して攻撃を放ち、ああして分散させた方がエアルウェンの魔力を消費させることができる。


 これぞ魔法や魔力主体で戦う者同士の心理戦であり、攻防戦といったところだろう。


(仮に《防御結界魔法シールド》を解いて攻撃に転じた場合、1秒間ほど無防備になるわ。その間だけで、5発は食らっちゃいそうね……けど魔力消費を恐れ、攻撃自体は大した威力がなさそうだから致命傷にはならないけど、子供相手にダメージを負うのも癪よね。どうしようかしら、フフフ)


 エアルウェンは防御魔法を展開させながら思考を回転させる。

決して優勢でもないのに何故か微笑する自分がいた。


(……何十年、いえ何百年ぶりかしら? 魔族と本気で戦うの。魔法士に職種変換ジョブチェンジしてから初めてじゃない? あのイクトと一緒だったら絶対にあり得ないシチュエーションね、フフフ)


 エアルウェンは、ふと昔を思い出す。




 遥か遡ること600年前――。


 当時150歳の彼女は、勇者と共に戦うパーティの一員だった。

 その時のエアルウェンは遠距離攻撃と攻撃支援と得意とした「弓使い」だ。

 現在と同様、魔王と魔王城を探す旅に出たのだが、捜索に難航し討伐には20年も費やすことになる。


 これほどまで経過した原因は、その頃は大陸の勇者同士が情報を共有するツールもなく、また魔族の幹部を捕え尋問するなど「勇者らしからぬ」発想を持たなかったからだ。

(したがって僅か5年で任務を果たした、勇者ナギサ達が如何に最短で優秀なパーティであったことが伺える)


 だが20年と言っても、長寿のエルフ族のエアルウェンにとって僅かな時間だ。

 それでも勇者は年老いて、仲間パーティの入れ替わりが何度かあった。


 無事に任務を果たした頃には、エアルウェン以外はほぼ全員が何かしらの介護が必要な状態ということもある。


 そして討伐に成功しても、また一世紀ごとに新たな魔王が出現していく。


 エアルウェンはその都度に呼び出され、「伝説の弓使いレジェンド・アーチャー」と称えられ、四周期ほど討伐任務の参加を余儀なくされた。


 流石に彼女も疲弊し、600歳を迎える頃には「もういいでしょ」と思うようになる。

 四度目の魔王討伐後、エアルウェンは姿を消した。


 エルフ族の長老に掛け合い、これまでの功績から森を出て自由に暮らすことを許可される。

 彼女は弓使いを捨て新たな道を歩もうとした時、魔王軍の残党である魔族に襲われそうになったところを一人の魔法士に助けられた。

 その魔法士の圧倒する実力を目の当たりにしたエアルウェンは「これだ!」と思い、魔法士に弟子入りする。


 ――だが決して容易ではなかった。


 元々エルフは精霊魔法(精霊を召喚し行使する力)に長け、魔力操作や魔法は苦手とされている。

 閉鎖的な種族の気性もあり、わざわざ好き好んで魔法士になろうとするエルフ族はいなかった。

 だがエアルウェンは勇者パーティとして大陸中を渡り歩くことで感性と視野が広がり、柔軟な姿勢を持つに至ったと思われる。



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