第80話 頑張るパルシャ



 師匠が口にした男の名前に、パルシャは首を傾げる。


「グレン? 勇者パーティだった師匠の友達で前衛を務めた竜戦士ニャ?」


「そうだ。グレンに背中を守られることで恐怖が消え、『G戦士コンビ』として共に刃を振るうことができた。だが臆病自体は決して悪いことじゃない、時に生存に繋がることもある」


「師匠、何が言いたいのニャ?」


「物事には程度があるということだ。臆病すぎても前に進めないが、勇猛すぎても早死にする場合もある――だからパルシャ、まず見極めろ。相手の姿や能力、何が得意とし苦手なのか、刃を交えながら思考を巡らせ。特に自分より強い相手と遭遇した際、それらが勝機へと繋がる場合もある」


「うにゃ頑張るニャ」


「……返答が軽いな。実は意味わかってないだろ? まぁいい。あと三年経ったら、また同じこと言ってやる。それまで冒険禁止な」



 それから3年後。


 ギムルから許可を貰い、パルシャは冒険者になった。

 師匠が話していた戦友グレンと出会い、竜撃パーティに加わったのだ。



◇◆◇



 マウルスは傷ついたパルシャに向けて鼻で嘲笑う。


「フン、まるで根拠がない。他の仲間が助けてくれるかもしれないという、ただの時間稼ぎか? もういい――死ねぇい!」


「こっちこそ、お前の技は見切ったニャ――岩硬砕ガンコウサイッ!」


 パルシャはマウルスでなく、地面の床に向けて戦斧を振るった。



 ズドォォォ――ン!



 激しい衝撃と共に石畳の床が粉砕され陥没する。


 っと、同時にだ。


「なっ!? し、視界が! み、見えない!?」


 そう、砕かれ飛び散った石の破片と衝撃波により舞う微塵により、周囲に漂う《多眼の魔法マルチアイズ》の視野が一時的に覆われたのだ。


「うにゃ、これでパルの動きは読まれることないニャ!」


 対するパルシャは視界を失おうと問題ない。

 獣人族の特性を生かし、他の五感で相手の位置を特定することが可能だ。


 そしてパルシャは獲物を狩る如く飛びつき、前転すると同時に斧を振う。


「――覇天砕ハテンサイッ!」



 斬ッ!



 鋼鉄の刃はマウルスの頭上を捉え、股下へと吸い込まれるように貫通した。


「ま、まさか……弟子にまで負けるなんて……俺は最初から、こいつらに勝てなかったというの――」


 マウルスは最後の言葉を言い切る前に頭頂部から両断に斬り裂かれて絶命する。

 全身を黒色に染めて霧散し、消滅後は両角だけを残した。


「師匠、やったニャ~……」


 戦斧を石床に突き立て、パルシャは呟く。

 疲労とダメージにより、その場でへたりと座り蹲った。



◇◆◇



 異なる場面では、魔法士エアルウェンと必中のワンタトが激戦を繰り広げていた。


 上空を浮くエアルウェンの全身を無数の矢印が突き立て浮遊し続けている。

 いくら彼女が移動しようと矢印は離れることなく常に追尾して飛び回っていた。


「――終わりだよ、エルフのお姉さん。ボクの《矢印照準魔法アロウエイミング》からは誰も逃れられない。ヘルディン様も気に入ってくださり、子爵の地位を与えてくれたほどの絶大な《特異改良魔法ユニークマジック》さ!」


 ワンタトは誇らしげに言いながら、掌から魔法陣を出現し魔力弾を連射させる。

 適当に撃とうと《矢印照準魔法アロウエイミング》に引き寄せられ誘導される形で魔力弾は矢印を目掛けて飛翔していく。


「そうみたいね。けど絶大ってのはおおげさかしら?」


「なんだと!?」


 エアルウェンは小範囲の《防御結界魔法ガードバリア》を矢印が向けられた箇所に展開させ悉く防ぎ切る。


「攻撃する方向がわかっていれば、わざわざ全身に結界を張るまでもないわ。あえて小範囲にしているのは魔力節約のためよ」


 そう、エアルウェンは見切っていた。

 ワンタトの《特異改良魔法ユニークマジック》は多対戦向きであって一対一では向いてないことを。

 無論、熟練した彼女だからこそ、このような器用な防御法が可能なのだが。


 自分の攻撃が通らないことに、ワンタトは次第にイラつきを見せ始める。

 爵位を持つ魔貴族とはいえ、見た目通りの精神的に未熟な部分を露わにしていた。


 その有様を上空で眺める、エアルウェン。

 艶やかな唇の端がキュっと吊り上がって見せた。



―――――――――――


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