第78話 お前も因縁あるんかい



 アムティアによる身を挺した覚悟の一撃。

 それはモウリエを袈裟斬りに捉え心臓部ごと斬り裂いた。


「バ、バカな……」


 目を見開いたまま絶望したかのように驚愕する、刃のモウリエ。

 その身を崩れ落ちながら漆黒色に染まり、石床に接触するとガラス細工のように弾け飛び塵となった。

 唯一、両角だけが残され転がっていく。


「勝った……辛うじてだが」


 血塗れ状態のアムティア。

呼吸を整えながら床に片膝がつくと、ドッとうつ伏せで倒れてしまう。


「……アム様、大丈夫?」


 ほぼ同時に身を隠していた、回復術士リフィナが駆けつけていた。



◇◆◇



 その頃、斧使いの戦士パルシャは嘗てないほど戦慄していた。

 

 心眼のマウルスという巨漢で盲目の魔族。

 全身から幾つもの眼球を出現させ、周囲に放出させ浮遊させていた。


 目測だけでも50個を超える目玉の群れ。さらにマウルスの全身にも目が生えた状態だ。

 パルシャはそれらにガン見されながら、剛腕で振るう大剣と撃ち合いを余儀なくされていたのだ。


「なんかキモいニャッ!」


 異様な光景にパルシャは悲鳴を上げる。


「――《多眼の魔法マルチアイズ》。オレは『眼』を全身から自在に生やすだけでなく、こうして四方に放ち監視することができる。したがってオレに死角はない。獅子獣人族ライオットの小娘よ、貴様の動きは精密に見切られ、如何なる対処も可能となったのだ」


 それがマウルスの《特異改良魔法ユニークマジック》のようだ。

 しかも隆々とした巨漢から振るわれる大剣は凄まじい威力かつ素早い猛撃。


 おまけにただの力任せの大振りでなく、パルシャの動きを追随した精密な一撃であった。

 動きの素早いパルシャですら躱し切れず、戦斧で受け止めるのが精いっぱいだ。


 幾度ともなく、巨刃同士が激しくぶつかり合い火花を散らしている。


「うにゃ! 強いニャッ!」


「ふざけた口調だが、オレの剣を悉く受け止める貴様も大した強者よ! しかし前にどこかで見たことのある型……小娘、誰から教えを受けた?」


「ギムル師匠だニャッ!」


「――ギムルだと!? あのドワーフの戦士か!?」


 マウルスの剣撃がぴたりと止まる。


「うにゃ? どうしたニャ?」


 パルシャも戦斧を振るう動きを止めた。

 目立った損傷はないが、今のうちにと体力の回復を図る。


 ふと、マウルスも唇が重々しく動いた。


「……俺の両目を奪った斧使いの戦士だ」


「前に師匠と戦ったことがあるニャ?」


「そうだ……あれは20年前――」


 マウルスは淡々と語り始める。

 奴もまた魔騎士として、長きに渡りヘルディンに仕える魔族だった。


 あの集落への侵攻中、勇者ナギサ率いる勇者パーティと遭遇し戦闘となる。

 主ヘルディンは勇者に右腕を斬り落とされ撤退を余儀なくされ、マウルスはギムルとの戦いで両目を斬られ視力を奪われた。


 その後は主同様に逃げ延びる羽目となるのだが、意図的に義手にしたヘルディンと異なり、マウルスは魔法に頼らず魔力も低い魔族だ。

 奪われた両目は回復することはなく、そのまま光を失ってしまう。


 だが優秀な戦士ほど敗北と挫折が糧となり克服するものだ。


 マウルスはギムルへの復讐を糧に肉体と魔力を徹底的に鍛錬し極める。

 その末に、《多眼の魔法マルチアイズ》を会得し、光を取り戻すことに成功したのだ。



「――怨みこそ我が糧であり源ッ! こうして己が魔力を《特異改良魔法ユニークマジック》級まで高めることができたのも、ギムルへの復讐を誓い修練した結果だ!」


「うにゃ、ほとんど逆恨みだニャ! お前が村を襲ったからそうなっただけニャッ!」


「黙れぇ! 奴は今、どこにいる!?」


「えっとぉ。ギムル師匠は今ぁ、ソ――はっ! あ、危ないニャッ! 誰が言うかニャッ!」


 逆ギレのマウルスの勢いに押され、危なく師匠の居場所をぶっちゃけようとする些か心理戦に弱いパルシャであった。



―――――――――――


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