第77話 刃のモウリエ戦



「竜式戦闘術――竜演舞リュウエンブッ!」


 アムティアは飛来する刃群を刀剣の連撃で全て打ち返した。

 さらに剣撃の速度は増していき、モウリエを凌駕し皮膚を削っていく。


「……くっ、なんという速度だ! しかも一撃にパワーがある! その華奢な身体でひ弱な人族の女がだと! この女騎士はいったい!?」


「このまま押して斬る!」


「やはり青いな!」


 モウリエは全身に纏う刃を扇のように集約し重ね合わせる。

 まるで大きな円型盾シールドの形へと模られ、刀剣の連撃を全て弾き出した。


「なっ!?」


 弾かれた反動で、アムティアは姿勢を大きく崩してしまう。

 勝機を見出した、モウリエの口端が吊り上がる。


「終わりだ。この距離では躱せまい――」


 円型盾シールドは眼の前で変形し、再び複数の鋭利な刃へと変化した。

そして荒くれる暴風の如く、アムティアを襲いかかる。


「うぐわぁ!」


 至近距離のカウンターに加え、暴力的な数の猛撃が直撃する。

 アムティアは全身の至る箇所を斬られてしまい鮮血が飛び散った。

 そのまま倒れ伏せ石床を滑っていく。


 通常であれば、この時点で決着がついている。


「やった……が、なんだ? この妙な手応えは……」


 モウリエは勝利を確信することなく怪訝の表情を浮かべていた。


 すると、


「クソッ! 言い訳になるが、魔族戦は初めてだけに油断したか!」


 アムティアは全身にダメージを負いながらも、すくっと立ち上がる。

 出血量と損傷の割に致命傷には至っていない。

 その出血も既に止まっているように見えた。


「なんだ、貴様の肉体は!? 何故、我が刃で斬り刻まれない!? 何故、それほど損傷が浅いのだ!?」


 モウリエの疑問に、アムティアはフッと笑みを零す。


「……私の師は竜戦士だ。この世で唯一、【竜式戦闘術】を極めた人族……その独自の呼吸法により、体内で竜気を巡らせることで肉体を強化し強靭と化すことが出来る。私などまだ未熟だが、学んだ基礎だけはしっかりと体得しているのだ!」


「ひ、人族の竜戦士だと! まさか16年前、魔王様を斃した勇者パーティの者か!? はっ! 貴様らの中にいた、あの人族の男が……そうか、貴様らは最初からヘルディン様の首を狙って!」


「その通りだ……しかし、モウリエとか言ったな。貴様が師匠に辿り着くことは永久にない。何故から、このアムティアによって討ち取られるからだ!」


「フン! 致命的でないにせよ、その傷と失血量で何を言う! 女騎士、強がっているが貴様とて立っているのがやっとではないか!? 次の攻撃で確実に終らせれば良いだけのこと!」


 モウリエが指摘した通り、アムティアが受けたダメージは決して浅くはない。

 斬られた際の失血もあり、足元がふらつき立っているのがやっとのように見えた。


 竜気は血液と共に体内で循環され、肉体を超人的に強化しつつ『竜波』など放出する力へと変換させる。

 したがって血液を失うということは、竜気エネルギーの供給が得られず戦闘に大きく支障を来すことを意味した。


「……確かに限界が近い。だがまだ限界ではない! 私は限界を超えなければならない! 強さを得るとはそういうことだ! 強さとは渇望ッ! だからこそ、私は渇望しなければならない! 我が師の強さを、目標とする強さを清く正しく羨望し渇望するのだ! 少しでもあの人に近づき認めてもらうために!」


 アムティアが自分を鼓舞する信念と心情。

 尊敬と親愛なる師に認めてもらうため、彼女は強さに飢え渇望する。

 いつの日か、勇者ナギサを超えることを夢見て――。


「何を意味不明なことを……脳に血が回らず狂ったか? まぁいい、これでトドメだ――死ねぇ!」


 モウリエは全身に纏う刃を縦横無尽に振るい襲い掛かってくる。

 攻撃こそ最大の防御――そう言わんとするように。



 コォォウゥゥォォォォォ――……ッ!



 アムティアは深く竜気の呼吸で身体能力を極限まで高める。

 限界の域を超えることで、『竜波』エネルギーが全身から湧き上がり握られた刀剣へと浸透して覆われた。



 ザッ!



 モウリエが放つ無数の刃がアムティアを突き刺す――かに見えた。


 だがしかし!


「なっ! 刃が通らない!?」


 そう、貫き斬り裂く筈の斬撃が、皮膚の部分で留まってしまい肉や骨にまで達することがなかった。


 だが決して無傷とは言えない。

 刃に触れた部分から血が滲み伝って流れ落ちている。


「うぐっ……や、やはりまだ修練が足りないか。だがこれで十分だ……モウリエ、貴様の方こそ、この距離で私の攻撃を躱すことができるのか?」


「ひぐっ、し、しまった――!」


 モウリエの表情が引き攣る。

 反射に後方に下がるが、もう遅い。


「【竜式戦闘術】――竜爪斬リュウソウザン!!!」


 アムティアの袈裟斬りで放たれた一閃。

 翳された刃ごと、モウリエの首筋から心臓部に掛けて両断させた。



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