第76話 屈辱は最大の力に変わるもの
俺は腕を翳し、あえてヘルディンに腕輪を見せてやる。
「まぁな。こいつのおかげで少し戦えるようになった。タイマンならナギサ相手に尻尾巻いて逃げたお前に負けることはないぞ」
「……バカか? あの時は、小娘勇者が相手だったから撤退したのだよ。奴の《
「戦術的撤退だと言いたいのか?」
「そうだ。あくまで勇者だけなのだよ、竜戦士。貴様の戦いも覚えている……確かに強いが所詮は人族レベルだと見ている。竜戦士とはいえ、本場の竜人族が持つフィジカルは脅威だが、所詮はひ弱な人族なんぞに後れを取るものか!」
「そう思うのは勝手だ。しかし程度が知れている……まださっきの『血祭り衆』の方が慎重で中々手練れだと感心したぞ」
「なんだと! どういう意味だ!?」
「その程度で、よく七厄災だがの最高幹部に出世できたと言っているんだ。どうせ、再び表舞台に現れたのも、一番の脅威とする勇者ナギサがいないと踏んだからだろ?」
「黙れ! 竜戦士とはいえ勇者のような《
ヘルディンは自分の人差し指の先端を口の牙で噛み切る。
その指先から血液が滴り落ち、何故か俺の方に向けられた。
「――《
血液が凝固され鮮血の雹と化し放たれた。
そして弾丸の如く高速に回転しながら迫ってくる。
「チッ!」
俺は舌打ちして躱した。
雹の弾丸は背後の石柱に接触し貫通する。
恐ろしい殺傷能力を見せたと思った瞬間、その箇所から炎が燃え上がった。
なんだ?
20年前と何か違うぞ。
「……その《
「20年前とは違う! あれから進化させたのだよ。傷口を最小にすることで単発かつ高速に絞り放つことが可能ッ! さらに――」
ヘルディンの左腕が触手のように伸長し、鋭い槍先へと変化する。
その左腕は血液の塊で作られた義手だ。
「このように自在に形を変え、義手や近距離武器として使用も出来る。触れた物はそこから業火の炎で焼き尽くされるだろう」
「その左腕はナギサに斬り落とされた時のままか? お前ら魔族ならば腕の一本くらい自然回復で治癒できるだろ?」
「あえて回復させず残しているのだ。己への戒めのため……屈辱は最大の力に変わるものだぞ、竜戦士よ!」
なるほど、中々の名言じゃないか。
最高幹部に出世も、相応に努力した上というわけだな。
こりゃ以前のヘルディンは忘れた方がいい。
死線を乗り越えた奴は覚悟が違うからだ。
「そうかい……多少はパワーアップしているようだ。まぁ『七厄災』とか名乗るなら、そうでなくちゃな――!」
俺は全身の皮膚から黒色の血管を浮き立たせる。
本気モードになった際に発症する、《
だが腕輪のおかげで激痛は襲ってこない、3分間は戦える。
俺は腰元の鞘から刀剣『竜月』を抜き身構えた。
◇◆◇
一方、玉座の間から離れた場所。
姫騎士アムティアと刃のモウリエが戦闘を繰り広げていた。
特にモウリエは、その通り名に恥じぬように全身を纏うドレスの袖とスカート部分、さらに「
――《
近距離戦闘に長けた能力だ。
手数の多さといい、「金色の姫騎士」と称されるアムティアを上回る剣捌きであった。
「こ、こいつ……強い!」
「今は子爵の地位を与えられているが、嘗ては『魔騎士』として300年ほど貴族に仕えていた身だ。見たことのない独特の剣技のようだが、そんな青臭い太刀筋ではワタシには遠く及ばん!」
モウリエが言う魔騎士とは、魔族の中でも特に精錬され魔貴族達に仕える騎士達だ。
大半の魔騎士は魔法戦術よりも強大な魔力を駆使し身体能力を強化し、時に異形の姿と化して戦う者もいる。
さらにモウリエのように《
また魔騎士達の気性として出世よりも主に仕えることを誇りとし、また強者と戦うことを喜びとする戦闘狂という名の番犬である。
「青臭いか……確かに私はまだまだ未熟者だ。だが師匠から学んだ【竜式戦闘術】が魔族などに後れを取る筈がない――コォォォォッ!」
アムティアは呼吸法により、体内で竜気を発生させ滾らせる。
隅々までエネルギーを循環させることで身体能力を限界まで強化させた。
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