第75話 超よゆーっしょ



 今から20年前。


 別大陸の勇者からの情報で、俺達勇者パーティは魔王軍が襲撃を仕掛けようとする集落へと向う。



 到着した時、既に魔王軍が村を襲っていた。

 周辺の木々や建物中から火の手が上がっている。

 

 これらは一人の魔族による仕業だった。

 それが当時の雹炎ひょうえんのヘルディン。

 この頃から奴は魔王軍の幹部で、多くの魔族と魔物兵を従わせる伯爵の地位だった。


「これ以上はやらせん! 行くぞ、ギムル!」


「おうよ、グレン! 覚悟しろ、魔族の外道共め!」


 俺とギムルの「G戦士コンビ」で、魔族と魔物兵を次々と薙ぎ払い打ち倒していく。

 連中もまさか勇者パーティに遭遇するとは思わなかったようで、虚を突かれる形で斃されていった。


 回復術士の聖女セイリアは逃げ惑う民の避難誘導を行い、負傷した者達を懸命に治療魔法で癒すことに専念する。


 シジンは男色家ゲイであることをカミングアウトする前であり、口先の割には戦闘中にイモを引くヘタレ魔法士だった。

 なので最も離れた安全圏でセコイ遠距離攻撃魔法を撃っては被害を抑えるため消火活動を行うなど、さも活躍しているっぽく見せている。

 しかし若くして導師と呼ばれるだけあり実力は確かなので、後方支援としてはそれなりに役に立っていたと思う。


 そして勇者ナギサは、ヘルディンと対峙した。


「ちょい、おたくがボスなのぅ? どうして、んなゲスい真似するワケぇ?」


 改めて言うが、この頃のナギサはまだギャル気質が抜けていない。


「貴様のような小娘が勇者だと!? バカにするなぁ、くらえ――《雹と炎魔法ヘイル・ファイア》!!!」


 ヘルディンは短剣で自分の腕を斬り、血液をまき散らした。


 散布された血液が針状の雹となり、ナギサに襲い降りかかって来る。

 これを一撃でも食らったら、そこから炎が発生し焼き尽くされてしまう恐ろしい《《特異改良魔法ユニークマジック》だ。


 しかしナギサは――。


「超よゆーっしょ――《神速疾風アクセラレーション》!」


 恩寵能力ギフトスキルを発動し、自身を10秒間ほど加速化させた。


 射程距離25メートル圏内の空間、ナギサ以外のモノ全てが超スロー状態に見えるとか。

 たとえ無数の雹攻撃だろうと造作もなく躱せる。

 否、ナギサに攻撃が辿り着く前に、彼女がヘルディンに攻撃するだろう。


「ちぇ。射程距離ギリギリか、まぁいいわ――」


 ナギサはヘルディンの眼前に現れ、レイピアを抜き攻撃していた。

 既に奴の左腕を斬り落としていたのだ。

 ほぼ同時に彼女はバックステップで噴出した血液を避けている。


 ヘルディンはナギサに反撃することはなく、いきなり攻撃を回避され腕を斬られたことに形相を歪め驚愕した。


「なっ、何だ!? なんなのだ、貴様は――ヒィィィ!」


 戦慄したヘルディンは悲鳴を上げ、脱兎の如くその場から撤退する。

 魔族なだけに足もやたら速かった。


 ナギサのスキル《神速疾風アクセラレーション》は射程距離から離れてしまうと強制的に解除される縛りがある。

 また一度、使用してしまえば60秒ほどのクールタイムが生じるという欠点もあった。

 したがって今のナギサのコンディションでは追撃はできない状況だ。


「グレン、ごめ~ん! あいつ逃がしちゃった!」


「気にするな、ナギサ! 深追いしなくていい、よくやった! 残りの雑魚は俺とギムルに任せろ!」


 本来ならヘルディンを生かして尋問し、魔王と魔王城の情報を聞き出す予定だったが仕方ない。

 それに幹部にしてはイモ引く雑魚っぽかったから、おそらく大した情報は得られないだろう。


 などと察して、残りの魔族と魔物共を一掃し殲滅した記憶があった――。



◇◆◇



 現在。


 再会したヘルディンは怪訝そうに俺を凝視している。


「しかし竜戦士……貴様は確か魔王ディザーク様に呪われ戦えぬ身の筈。だがあの頃と異なり負の魔力を感じるぞ。その刀剣、いや腕輪の方か?」


 流石、最高幹部ってか?

 もうカラクリに気づくとは……。



―――――――――――


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