第74話 雹炎のヘルディン



 エアルウェンの魔法で血祭り衆三人の陣形を崩す事に成功し、アムティアとパルシャが駆け出した。

 各々の決めた対象である、モウリエとマウルスに斬り掛かる。


「ぐっ、こいつら!?」


「バカめ、見くびるなよ!」


 モウリエはドレスの裾を刃化させ、マウルスは背負っていた大剣を振るい壮絶な撃ち合いとなる。

 結果、ますます距離が置かれるようになり完全に三方向へと別れた。


 唯一取り残された、ワンタトは唖然とする。


「おい、二人とも! 扉の警護はどうする!? ったく、これだから脳筋共は……」


「――坊やの相手はお姉さんがしてあげる」


 気がつくとワンタトの目の前に浮ぶ、魔法士エアルウェン。

 既に魔杖を掲げ、再び攻撃用の魔法陣を展開させている。


「……フン、エルフの魔法士。その容姿といい、随分と偽りだらけじゃないのか?」


「ウフフフ、やっぱり坊やね。女はね、秘密が多い方が魅力的なのよ」


「坊や言うな、エルフ如きが!」


 ワンタトは激昂し両腕を広げる。

 背後から無数の『矢印』を放出させ、自分の周囲に展開させた。



◇◆◇



 仲間達が激戦を繰り広げている中、俺は隙を見て『玉座の間』潜入した。


 フォルセア王城と変わらぬ造りだ。

 広々とした空間で、直線上に敷かれた赤絨毯の奥側にある階段の上に、ぽつんと豪華な玉座が置かれている。


 その玉座に一人の魔族が足を組み鎮座していた。

 鮮やかな刺繍が施された漆黒の貴族服に身を包む男。

 長く巻かれた茶髪に両角が生え、どこか品性のある容貌。


 やはり記憶通りだ。


 ――こいつこそが、『雹炎ひょうえんのヘルディン』。

 まるで自分が王と言わんばかりに余裕ぶっている。


「人族か? 何者だ、貴様は……ん? 何処かで見覚えがあるな……」


 ヘルディンは双眸を細め、じっと俺の姿を見入っている。

 

「……俺のこと覚えているのか? 勇者ナギサの強さにびびり、イモ引いて逃げたお前が――」


 その言葉に、ヘルディンが「なっ!?」っと声を荒げる。

勢いよく玉座から立ち上がった。


「ナギサだと!? 私の前で、あの勇者の名前を出すな――っは!? 貴様、まさか!」


「そっ。俺は嘗て勇者パーティの前衛を務めた、竜戦士グレンだ」


「竜戦士だと!? あのドワーフの戦士と共に我が配下を蹂躙した……バカな! どうして今更!?」


 やはりヘルディンは俺のこと覚えていたようだ。

 実際こいつと直接戦ったことはなかったがな……。



◇◆◇



 あれはかれこれ20年前だろうか。

 魔王討伐に旅立ってから一年後の話になる。


 ようやくまとまりかけていた俺達勇者パーティ。

 そんな中、勇者ナギサが所持する「スマホ」から、魔王軍がとある集落地に拠点を置くため狙っているという情報が入ってきた。


「グレン、ちょい寄ってみるぅ?」


「……ナギサ。何コンビニに立ち寄る感覚で言っているんだ? 魔王軍がいるなら行くに決まっているだろ」


 当時のナギサはまだギャル系が抜けていない。

 相変わらず、ちゃら系の勇者だった。


「そのスマホだかの情報、確か他大陸の勇者からですよね?」


 シジンが指先で眼鏡の位置を直しながら訊いている。


「そっだよ~。イースト大陸の勇者ハルッチ。最近メル友になったんだぁ」


 ハルッチって何よ?

 どの大陸の勇者もみんなこーなのか?


「別の大陸で活動する勇者が、どうしてラグロン大陸の状況を知っているのですか?」


「まさか密かに上陸して魔族を見かけたのか?」


 セイリアとギルムも疑問を投げかけている。

 別大陸の勇者が上陸することは、そこに魔王と魔王城の有力な手掛かりがある可能性が高いということ。

 案外、ここラグロン大陸に潜伏している可能性だってある。


 しかし、ナギサや首を横に振るった。


「違うよん。《恩寵能力ギフトスキル》だってぇ……なんでも上空から、世界中を見渡しちゃう能力みたいだよぉ」


 所謂、偵察用の人工衛星みたいなノリか。

 相変わらず召喚された勇者はなんでもありでムカつく。


「まぁいい……そのハルッチだかの情報を頼りに行くだけ行ってみよう。上手くいけば魔王のことがわかるかもしれない。ナギサ、忘れ物がないよう準備しておけよ」


「だねぇ。でもグレンって色々と口やかましいところとか、なんだかお母さんみたいだねぇ。きゃは、超ウケる~!」


「誰がお母さんだ! お前がだらしないから『導き手』として何かと指摘しているだけだろーが! そう思うなら動け!」


 こうして当時の俺達勇者パーティは、とある集落へと向かうのだった。



―――――――――――


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