第73話 ヒュン、ヒュン、ヒュンの分断作戦



 やばい、見つかってしまった!

 心眼のマウルスが放った目玉が俺達を捉えてしまう。


 すると、いつの間にか俺達の眼前に何かが出現する。

 それは道しるべの標識に記される『矢印』であり、その先端が俺達の頭部や左胸など急所に向けられていた。


「――《矢印照準魔法アロウエイミング》。指し示された箇所への攻撃は絶対に外さない」


 ワンタトという少年魔族が呟く。


「不味い! 逃げろ!」


 俺は叫ぶと同時に、モウリエという貴婦人風の女魔族が前に出てきた。


「――《自在刃の魔法フリーエッジ》!」


 モウリエは豊満な胸元から五枚のハンカチを取り出し、一瞬で硬質の刃へと変化させ投げた。



 ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン――。



 空を裂きながら複雑な動きで高速回転する刃群が俺達に襲いかかる。


 石柱に陰に隠れながら遮蔽物を利用し回避を心みるも、表示された『矢印』に従うように、刃は変則的な動きを見せどこまでも追尾してきた。

 あのワンタトというガキの魔法効果か。


「みんな一箇所に固まって――《防御結界魔法ガードバリア》!」


 エアルウェンは魔杖を翳し防御魔法を発動した。

 俺達の周囲に幾何学模様の結界が張り巡らされ、全ての刃を弾き防いだ。

 いつの間にか『矢印』も消失している。


「どうやら一つの矢印に対し、一回の攻撃で効果が消えるようだ……仲間の魔法と連携できるという点では非常に厄介な能力か」


 俺はそう見定めた。

 『雹炎ひょうえんのヘルディン』が気に入るのも頷ける。

 奴の広範囲型の《特異改良魔法ユニークマジック》と相性が良いからだ。


 結界越しで、血祭り衆こと三人の魔族を凝視する。

 連中は扉の前から、ほとんど動いていない。

 また俺達と同様に、じっとこちらを観察しているようだ。


「エルフの魔法士だと? しかもあの防御魔法、中々の手練れだ」


 マウルスが低い声で感想を述べている。

 中央に立つ、モウリエが首肯した。


「おまけに獅子系獣人族ライオットもいる……奴らはワイネアのレジスタンスじゃないのか?」


「どこかの冒険者が紛れ込んだんじゃないの? まさか、表の騒ぎも奴らのせいじゃないだろうね?」


 ワンタトの推測に他の二人も「だろうな……」と同調する。


 どうやら俺達を警戒し、様子を見ているようだ。

 強い魔族ほど慎重だからな。

 今の攻撃といい、あの血祭り衆……相当高い実力者だ。


 とはいえ。


「あいつらを斃さなければ先には進めない……しかも互いに連携できるのは非常に厄介だ」


「では師匠、ここは一騎打ちに持ち込みましょう」


 アムティアが珍しく自分から提案してくる。

 何かと俺が仕切っているが、一応は竜撃パーティのリーダーは彼女だ。


「アム?」


「大丈夫です、師匠。私があの刃を操るモウリエを相手にします」


「うにゃ、パルは目玉のマウルスと戦うニャッ!」


「それじゃお姉さんはワンタトという坊やの相手をするわ」


 パルシャとエアルウェンまでやる気になっている。


 特にエアルウェンが戦闘に積極的なのは珍しい。

 確かにイクトがいなくなってから意欲的にはなっているが。

 

「……アム様、リフィナは?」


「リフィナは回復役ヒーラーとして、ここで待機だ。状況を見て各自の治癒サポートに入ってほしい」


「……うん」


 素直に頷いて見せる、リフィナ。

 控えめなこの子こそ自分から催促してくるのは非常に珍しいことだ。


「そして、グレン師匠は私達が連中を引き付けている間に、玉座の間に侵入し雹炎ひょうえんのヘルディンを討ってください」


「構わないが……任せていいのか、アム?」


「はい。話を聞く限り、師匠でなければ斃せぬ相手です」


「……わかった」


 アムティアがここまで言っているんだ。

 俺は仲間達を信じようと思った。


 こうして竜撃パーティ全員が行動に移していく。


 エアルウェンは防御魔法を解除し、新たな魔法陣を展開させる。


「――《貫通突剣魔法グラディウス》!」


 魔法陣から無数の剣を模った魔法弾が発射された。

 血祭り衆三人は「チッ」と舌打ちし素早く回避する。

 

 結果、それぞれの魔族を離れさせるに成功した。



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