第69話 門前払いのパーティ
潜入のため奴隷商人に扮し、ワイネア王国の検問まで辿り着いたまでは良かった。
そこで思わぬ門前払いを受けてしまった、我ら竜撃パーティ。
仕方ないので一旦諦めて距離を置くことにした。
「いくら男性の労働力が欲しいからって、あそこまで拒まれると女性として自信を無くすわ……これも立派な男女差別だと思うけど、グレンくんどう思う?」
撤退時。
荷車の方から奴隷娘に扮したエアルウェンが愚痴を漏らしている。
同じく奴隷姿のアムティア達も「なんて失礼な連中だ!」とキレていた。
なんでも資金不足で奴隷を引き取る金を惜しんでいるらしい。
後先考えずに略奪したもんだから、色々と切羽詰まった運営のようだ。
「……すまん、みんな。今回ばかりは俺の判断ミスだ……けど向こうのニーズは把握した。今度は俺が奴隷役をやるから、アムとエアル姉さんで商人役を頼むよ」
「本当ですか師匠? しかし偉大なる竜戦士が奴隷役をされるのは流石に……」
アムティアは否定的な意見だ。
彼女は師である俺を美化して見る部分があるので余計抵抗があるのか。
「だがアム、ここは唯一の男である俺がひと肌脱ぐしかない。勇者ナギサもゴネながらやってのけたんだ。アムだって王女なのにやってくれただろ?」
「私は師匠を信頼していますから……」
「だったら俺も同じだ。アムは勿論、仲間を信頼しての作戦だ」
「……わかりました」
渋々納得するアムティア。
愛弟子に信頼され大切に思われるのは凄く嬉しいけどね。
前世の社畜時代、こんな素直で敬ってくれる後輩なんていなかった。
「じゃ決まりだ。それと、リフィナとパルシャは小柄だから荷台の隅で食料の中に隠れてくれ」
「……グレン、わかった」
「うにゃ、了解ニャ」
そんな感じで互いの役柄が入れ替わる。
日を改めて再トライすることになった。
「――おおっ、男の奴隷か!? うむ、健康そうで中々いい身体つきだ! それに食料付きとは有り難い! 入国を許可する!」
男奴隷(俺)+荷台に食料(中にリフィナとパルシャが隠れている)付きで入国を許可してもらった。
う~ん、少し複雑な気分だが上手くいったぞ。
ちなみに商人が他国へ入国する際に使用する許可証は、エアルウェンが魔法で偽装して作ってもらっている。
こうして入国が認められたのは良かったが、何故か10名の魔族兵の護衛が付くことになった。
なんでも商人達が集まる市場まで案内するとのことだ。
情勢もあってか、やたら優遇されていると思った。
移動中、奴隷役の俺は荷台の隙間から国内の景色を眺める。
支配されて一年間、ほとんど復興はされていない。
あちらこちらで焼けただれた被災の痕。
破損したままの建物や瓦礫が多数見られていた。
人族の国民も僅かながら生き延びている。
とはいえ魔族達の食料兼労働力として鉄製の首輪をつけられた状態であり、奴隷以下の家畜同様の扱いを受けているようだ。
(若干、風化こそしているが焼け焦げた痕ばかりだ……ヘルディンの魔法によるものか?)
「……師匠、酷い有様ですね。侵略とはいえ、とても国として機能しているとは思えません」
馬車を運転するアムティアが小声で訴えてきた。
俺は頷き、運転側へと身を寄せる。
「――隠密のビャンナから情報を仕入れた後、昔の記憶を辿って思い出したことがある」
「前勇者パーティにおられた頃ですか?」
「ああ、そうだ。
「なるほど。この街並みの風景は、そのなごりというわけですね?」
「おそらくそうだろう……血液の雹に触れてしまえば如何なるモノだろうと炎に包まれる効果を持つ……おそらくワネイア中が、それに巻き込まれたに違いない。だから余計に民が少ないのだろう」
捕虜にするべき民の大半がその雹攻撃に巻き込まれ命を奪われたに違いない。
んで運営難となり、食糧難と復興すらままならない状態ってわけだ。
「……師匠、そのヘルディンという魔族と戦ったことがあるのですか?」
「ん? ああ直接戦ったことはない。だが遭遇したことはある……色々あってな」
「――おい、お前ら何を話している?」
護衛する魔族兵の一人が指摘してきた。
どいつも手には槍を持ち、少年兵のような姿をしている。
魔王軍と戦い慣れていない、ワイネア王国軍も連中の姿に躊躇し攻撃が遅れてしまったのだろう。
「いえ、なんでも……申し訳ない」
アムティアはその場を誤魔化した。。
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