第67話 男色家の賢者って



 俺達、竜撃パーティは護衛クエストで小国まで商人を送り届けた後、売ってもらった荷馬車でワネイア王国を目指した。


 ワイネア王国は既に魔王軍の占領地と化した国である。

現在は最高幹部『七厄災』の一人『雹炎ひょうえんのヘルディン』という魔族により掌握されていた。

 

 わざわざ敵地に乗り込む危険な行為であることは十分に承知な上だ。

しかし俺達は魔王の詳細を知るためにも、その魔族から手掛かりを得なければならない。

 でなくても、イクトのせいで1年間も時間を無駄にしてしまったのだから。


「――それで師匠、どうやってワイネア王国に乗り込むおつもりですか?」


 夜の野営中、アムティアが訊いてくる。


 立ち寄った小国から得た情報によると、占拠後のワイネア王国は魔族達による強力な魔法結界で守られおり外部からの侵入ができない状態らしい。


「アム、考えはあるさ。昔、勇者パーティが潜入するためにやっていた手を使う」


「前勇者パーティが使っていた手段ですか?」


 俺は頷き、弟子のアムティアに詳細を説明する。



 ――かれこれ19年ほど前だ。

 元々は魔法士のシジンが考えた策だった。


 それは俺達男性陣が奴隷商人に扮し、ナギサとセイリアを生贄の奴隷として差し出すことで、敵魔族が支配する国の内部に潜入するという作戦だ。


 無論、当のナギサとセイリアから猛反発を受けたのは言うまでもない。



◇◆◇



シジン「というわけで、貴女達は今から奴隷であり魔族に差し出すための生贄ですねぇ。どうか魔族共の慰み者になってください、ハイ」


ナギサ「ふざけんなよ、カマ野郎! んな提案、飲めるわけないでしょ!」


シジン「私はカマではありません! ボーイズ・ラブの男色家ゲイです! そこんとこ間違えないで下さい、ハイ!」


ナギサ「やばぁ! こいつ、カミングアウトしてから開き直ってるぅ! セイリアだって嫌よね、ね!?」


セイリア「勿論ですわ! 断固抗議します! こんな胡散臭い魔法士なんぞ、お父様に訴えて即処刑いたしますわ!」


シジン「嫌ですね、セイリアさん。貴女、仮にも聖職者じゃありませんか……これも立派な作戦ですよ。魔族達の強固な守りで誰一人とて侵入できない以上、こうして招かれる形で内部へ入る必要があるでしょ? ハイ」


ナギサ「ハイじゃねぇっつーの! どうしてあたしとセイリアだけ危険な目に遭わなきゃいけないのってことよ! こんなのパワハラじゃない!」


シジン「正直に言いますと、私にとって女性はどうでもいい存在なのです。世界中の美少年達とグレンさんの肉体美さえ守れるのなら、他は多少の尊い犠牲で割り切れる感じすねぇ、ハイ」


ナギサ「キモッ、キモイわ! あんたグレンの体しか興味ないだけでしょ! ちょっと、グレン! 貴方、ガチで狙われているわよ! この変態に何か言ってやってよぉ!」


グレン「(巻き込まれたくねーっ)確かにリスクはある……だが俺とギムルで二人の安全は全力で護るよ。な、ギムル?」


ギムル「(面倒くさ……)ああそうだな」


セイリア「グレン様がそこまで仰るのであれば、わたくしは貴方様に身も貴心も委ねますわぁ!」


ナギサ「ちょっと、セイリアちょろすぎ! まったくこのパーティ、ポンコツばっかねぇ! もうヤダァ! あたし帰るぅ!」


グレン「俺とギムルは関係ないだろ? 言い掛かりはよしてくれ。あとナギサ、女神に召喚されたお前がどこに帰るって言うんだよ……」



◇◆◇



「……それからゴネまくる勇者ナギサに『腹いっぱいパフェ奢ってやる』っていう条件で飲んでもらったんだよ……囮役の二人は見栄えだけは抜群だからな。結果、シジンの作戦が見事に的中し、敵魔族も安易に受け入れ侵入できた。そのまま中核へと入り込み、敵の将軍格を打ち倒し、他の配下達ごと一網打尽で殲滅させたというわけだ」


「なんと……」


「流石は導師シジン様ね。けど女子を軽視し差別する発言は頂けないわ。ああいう方って社会的性差ジェンダーとか敏感で繊細なのにね……」


 傍で聞いていた直属の部下である、エアルウェンは女性側として素直な感想を漏らしている。


「当時のシジンはカミングアウトしたばかりで、己の若さもあってか性欲バリバリの全開だったからな。色々な意味で解放的だったよ……けど今は受け側専門になったとかほざいて、『女性の気持ちもわかりますねぇ、ハイ』と男女平等を謳っている。すまん、どうでもいい話だ」


 前魔王戦で男性機能がアレしたらしいからな。

 どちらにせよ、女子達の前でする話じゃない。



―――――――――――


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