第65話 粗悪品の奴隷少女


イクトside



 僕の反応を見て、奴隷商人タックは双眸を細めた。

 布マスク越しだが、いやらしくニヤついているのがわかる。


「ええマジです。無料でその奴隷を差し上げます」


「どうしたんだ、いきなり? そんなんで商売成り立つのかよ?」


「……通常なら人族の若い娘は即完売なのですが、このような気性もあってか買い手がつかず粗悪品として在庫処分にも該当せず困っております」


「要は奴隷不適合ってことじゃん。でも気持ちはわかるよ。テンプレの奴隷娘っては怯えた目をして小動物のようにビクビクと震えているものさ……そこがまた支配欲が刺激されるものだけど、彼女はなんか違う。寧ろなんで奴隷してんのよって聞きたいわ」


「私は戦災孤児よ。魔王軍に村を襲われ彷徨っているところ、奴隷商人こいつに掴まったの」


 奴隷少女は身の上を話してきた。

 さっきまで弱々しく物憂げな虚ろな目をしていた癖に、今じゃやたらと活気に満ち溢れている。

 どうやら「さっきは暇で眠かったからよ」という理由らしい。


「にしても、ぐいぐい来る子だな~。いや嫌いじゃないよ。今時のラブコメ展開とかなら需要の高い子だと思うし、例えるなら陰キャ童貞主人公が大好物なヒロインだね。主人公が逆に絆されちゃう的な? けど僕が求めるのは、あくまで従順な全肯定人形となる奴隷っ子だ。キミは汚れを取って肉付きがあれば、そこそこ良い感じになりそうだけど……そのぅ、胸が絶望的じゃないのか?」



 ガタガタガタガタ――……!



 僕の言葉に、奴隷娘は無言で柵を握り締めて鉄格子を激しく揺らして見せてくる。

 やばぁ、目がイッちゃって直視できないや……。

 どうやら彼女にとって「貧乳」は禁句ワードのようだ。


「ち、超こえーよ……てか、他の奴隷には従属させる魔法を施しているのに、どうして彼女だけフリーなんだ?」


「ほう、お客様にはわかりますか?」


 タックは双眸を細めて何やら感心している。


「え? まぁ魔力探知くらいはできるよ……(元勇者だからね)」


 勇者職はオールラウンダーだ。

 本来は魔法士の専売特許だけど、僕の場合 《恩寵能力ギフトスキル》の影響で魔力操作に長けている。

 したがって魔力探知の精度だって下手な魔法士以上に抜群なのさ。


 ちなみに探知自体は魔法を使用するわけじゃないから、今の僕でも問題ない。

 ただレーダー感覚で魔力を探知し強さなどを見定める能力だ。

 

「この奴隷、生まれながらの体質なのか、魔法の抵抗力が強いようで呪術の類に一切の影響を受けないのです」


「つまり魔法で縛ることができないってこと?」


 僕の問いに、タックは無言で頷く。


「……ですから奴隷として成立しない部分もございます。かと言って処分するわけにもいきませんし、大変困っていました」


「ぶっちゃけ不良品じゃないか。そんなの僕に売り……そっか、だからただでくれるってわけだな?」


「左様です」


「だったら解放してあげればいいじゃん。これだけ逞しいんだから、どこでもやって行けるんじゃね?」


「嫌よ! だって解放されたら一人で働かなきゃいけないもの! そんなの人生の負け組よ! それなら冴えない冒険者の愛玩具にでもなって楽に生きていくわ!」


 おっ、この子……なんか思考が僕に似てるぞ。

 てか冴えない冒険者って誰よ?


「こんな感じの奴隷なのですよ。ちなみに痩せているのは拾った時からです。どうやら食べず嫌いな性分のようで……」


「聞いてよ、こいつ最悪なのよ! 肉や魚を絶対に出さないの! 自分の嗜好を押し付けるエゴイストよ! だから見なさい、他の奴隷だってみんな痩せているでしょ!」


 なんでもタックは菜食主義であり同時に植物油マニアで、さらに某料理タレントバリに植物油に無限の可能性を信じているらしい。

 食事も野菜が多いのは結構だが、毎回皿が植物油の海で食欲が失せるのだとか。

 どうやらタックの腹は油太りのようだ。


「てか、この会話続ける意味があんの? 時間の無駄じゃね?」


「お客様に引き取って頂きたいからですよ。この生ゴ……ごほん、奴隷をです」


 今、生ゴミと言おうとしたな?

 明らかに僕に押し付ける気満々だろ、お前。



―――――――――――


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