第64話 イクトと奴隷少女
イクトside
しばらく歩き日が当たらない薄暗い道を進むと、真っ白なテントの小屋が路地の一角に現れる。
「こちらです」
「如何にもってところだな。なんか娼婦館で女の子待ちしている並みにドキドキしてきたよ」
「お客様、見たところ冒険者ですよね? では奇形ですが戦闘用の男獣人族や精神疾患のある男戦士なんかは如何でしょう? 多少、知能が低くても従属の呪術を施せば貴方の指示には100%服従いたしますよ」
「男はいらない。別に冒険する仲間が欲しいわけじゃないからね」
「ほう、ではどのような奴隷がご所望で? 女性にこだわるところを見ると、やはり性奴隷でしょうか?」
失礼なことを訊いてくるタックに、僕は「違う! 見くびるな!」と語気を強く睨みつける。
「こ、これは失礼……ではどのような奴隷を?」
「――僕を全肯定してくれる奴隷っ子だ」
「は、はぁ?」
首を捻り始めるタック。
なんか頭悪いな、こいつ……。
「早い話、僕を甘やかしてくれて承認欲求と自己顕示欲を満たしてくれる子だよ!」
「んーっ、ちょっと言っている意味がわからないですねぇ……母親代わりとかでしょうか?」
「違うって! 僕に逆らわない従順な子だっつーの!」
「いや、奴隷だから基本従順なのですが……(あっ、こいつバカだ)」
タックは溜息を吐き、僕をテント小屋の中へと入れてくれる。
薄暗く不気味な店内だ。
異様な腐敗臭が立ち込められている。
杜撰で不衛生なペットショップを思わせるように幾重にも檻が設置され重ねられていた。
そこから鉄格子を掴む人や獣っぽい指が見え隠れしており、鳴き声や唸り声が聞かれている。
ふと奥側の区域に置いてある檻に注目した。
鉄格子越しに、ピンク色の短い髪をツィンテールに縛った若い女の子がいた。
顔立ちは悪くなさそうだが身体はガリガリに痩せ衰え、どこか虚ろな瞳をしている。
見たところ人族で、14歳くらいか。
「――あの子は?」
妙に気になり、タックに訊いてみる。
「ええ、先週仕入れた奴隷娘です。まだ躾けはなっておりませんが、病気もなく新鮮ですし若い娘と言う点では、お客様のニーズに叶っておりますでしょうか」
「う~ん、けど痩せぽっちで胸がないなぁ……」
僕はぼそっと呟くと、奴隷娘がいきなりガンと足で鉄格子を蹴り飛ばす。
「買えよ、テメェ!」
「うおっ、なんだこの子、めちゃ凶暴なんですけど!」
「言ったでしょ、躾けがまだだと……如何でしょうか?」
「如何じゃねーよ! い、いらねーっ! 絶対、肯定してくれなさそうだもん!」
「肯定するわよ、なんでも。だから私を買ってね、お兄さん」
急に口調を変えてくる奴隷娘。
その変貌ぶりが余計サイコパスに見えてしまう。
「いや、キミを買って楽しくやれるイメージが沸かない。そもそも僕はぐいぐい押すのは好きだけど押されるのは嫌なんだ。ラノベ読者だってそう思うさ。彼らはユニコーンだからね。自分の幻想に反する子と冒険に出たっておもろくねーっ、一話読んでさよなら~って感じ」
「私は恩を必ず返すタイプよ。お兄さんが望むなら、貴方色に染まってあ・げ・る♡」
「う~ん、けど胸がなぁ……異世界モノのヒロインはおっぱい大きくないと読者にウケないんだよ」
「どうでもいいだろうが、ボケェ!」
ガンと、再び奴隷娘は強烈に鉄格子を蹴り出した。
だ、駄目だ……。
こんなの絶対に買う気になれない。
だって例えるなら、娼婦館で本指名無しで一か八かのフリー指名にしたら、まるっきり好みじゃないハズレ嬢が来てしまうくらい危険な奴隷っ子だ。
僕はドン引きし、「ひぃ……」と喉を鳴らしてしまう。
不安な眼差しをタックに向けた。
「やっぱ無理ぃ。ねぇ、この子以外に奴隷はいないの?」
「まぁ活きの良いのは、この奴隷くらいでしょうかねぇ」
「いや、活きの良いとかのレベルじゃないよね!? 凶暴すぎて永遠に封印するべき邪神級だよ!」
「――では、わかりました。なら無料で差し上げます」
「えっ、無料? マジで?」
瞬間、僕の目つきが変わった。
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