第61話 そうはさせんぞ!
アムティアside
グレン師匠は前魔王の討伐に成功した後、そのままお一人で5年間ほど世界中を旅していたと言う。
目的は魔王にかけられた《
しかし見つけることができず、前勇者が眠るフォルセア王国に戻ることにした。
その道中、魔族に襲われた私に遭遇し助けてくれたようだ。
「――アム、まずは基礎として呼吸法を学んでもらう。まずは一年間、ひたすら続けるんだ。それが身に付いた時、他の事も教える。何事も基礎が大事だからな」
「わかりました、師匠」
などと、あっさり返答してしまったが、これが想像を絶するほど至難の業だった。
何せ四六時中、教えられた呼吸を続けなければならないからだ。
寝ている時すら意識して続けなければならない。
グレン師匠が不在の間は、侍女に頼み正しく呼吸法が行えているか確認してもらっていた。
最初は難しく、何度も挫折しかけてしまう。
転生者であるグレン師匠は赤子から大人としての知識と意識が備わっており、竜人族の長に教えられるがまま約一年間で呼吸法を身に付けたそうだ。
当時、5歳だった私はそこまでの要領が掴めず、また覚悟もなかった。
グレン師匠は冒険者家業をこなしながら、そんな私の様子を時折見に来てくれる。
「最初からできる者なんてそうはいない。当時の俺は赤子で、それしかできない状態だから意識できただけに過ぎない。けどアムだって強い気持ちがあればできるようになる。一年と言ったが、アムさえ良ければ俺はずっと付き合うよ……陛下じゃないが平和になって、冒険者以外は特にすることもないしな」
優しく励ましてくれる言葉。
グレン師匠はいつだってそうだった。
常に私に寄り添い気持ちを汲んで指導してくれる。
だからこそ――この人に褒められたい、認めてもらたい。
それだけが私の糧となった。
諦めずに続けること、三年後。
目標通りではなかったが、ようやく呼吸法を身に着けることができた。
それでも師匠は凄く喜んでくれる。
「本場の竜人族も出来ない奴が多い。連中は高すぎるフィジカルに頼りすぎているからだ。まぁ竜戦士以外は、外の世界を知らずに孤島で生まれ育っているという隔離された環境もあるんだけどな……その点、アムは大したものだ。案外、竜戦士になれる素質があるかもな」
素直に褒められることが嬉しかったのもある。
しかし一番は、グレン師匠の期待に応え近づけたことだろう。
それからも私は【竜式戦闘】の教えを請い修練を繰り返していく。
基礎が出来ていれば竜気が使えるようになり、自らの身体強化や技の習得へと繋がった。
それからはグレン師匠も私の腕を認めてくれるようになり、時に城の外に出て魔物を狩り実戦的で濃厚な時間を共に過ごすことになる。
今思えば、この時が一番楽しかったのかもしれない。
そして12歳になる頃には、精鋭部隊である王宮騎士に勝つほどの実力となり、周囲から「天賦の才を秘めた姫騎士」と称えられ知れ渡るようになった。
だが決して天賦などではない。
全てグレン師匠の教えが的確だったからだ。
私はただ、あの方を信じて邁進しただけのこと。
――今とてそう信じている。
◇◆◇
「グレンくん、さっきはありがとね」
「ん? エアル姉さん、なんのことだい?」
現在。
私達、竜撃パーティは荷馬車に乗せてもらった商人と共に野営をしている。
実はこれもクエストの一環だった。
商人と荷馬車をワネイア王国への通り道である小国まで護衛する任務だ。
そんなグレン師匠は雑用係として夕食の支度をしながら聞いている。
エアルウェンは「くす」と艶っぽく微笑を浮かべ、師匠に顔を近づけてきた。
「ロイド国王が差し向けた借金取りのリトルフ族の子、ルカだっけ? あの子に胸がどうとか言われて、お姉さんを庇ってくれたことよ。とても嬉しかったわ……」
「そのことか。仲間なんだから当然だろ?」
「フフフ、本当グレンくんって良い男ね……つい、お姉さん本気になっちゃう」
ん!?
なんだ、この二人から漂う大人同士のピンク色オーラは!?
私もついに竜眼が覚醒したのか!?
いや違う!
そんなわけあるか!
おのれぇ、そうはさせんぞ!
―――――――――――
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