第60話 アムティアの弟子入り


アムティアside



「――あら、グレン君じゃない? そう、アムティアを助けてくれたのは貴方だったのね?」


 フォルセア王城、謁見の間にて。

 母のクラリスが親しみを込めた言葉を投げ掛ける。


「お、お久しぶりです、王妃。ロイド陛下は?」


「反省房に閉じ込めているわ。大切な娘を危険に晒した罰としてね。無論、婚約も破棄よ! 意思疎通できない国にお嫁になんか行かせないわ!」


 珍しく母はご立腹だった。

 まぁ先方の国が勝手に大々的な広報をしたせいで、私が魔族に襲われたのだからな。


「お母様、冒険者様をご存知なのですか?」


「ええ、アム。グレン君はママの推しなの。勇者を導き、陰の英雄と称えられた偉大なる竜戦士なのよ」


「竜戦士様……」


 竜戦士については、よく母から聞かされていた。

 5年前、姉のセイリアと共に戦った勇者パーティの一人で、勇者の『導き手』として支えていた英雄。


 魔王を斃した際に負った呪いのせいで、まともに戦えない体となったがその権威は失っておらず今も尚健在であるとか。


 この方が……なるほど。

 グレン師匠の強さを目の当たりにした私は素直に納得した。


「王妃、ひと昔前の話です……今はただの雑用係ですよ」


「この控えめな感じがママのツボなのよぉ。セイリアはフラれちゃってゾルダーナ王国にお嫁に行っちゃったけど、推しであることに変りないわ。アムも結婚するなら、こういう方にしなさい、ね?」


 やたらと進めてくる、母クラリス。

 まだ結婚にピンとくる年頃ではなかったが……そのぅ、グレンという竜戦士に興味を持ち心惹かれていたのは確かだ。


 その気持ちはグレン師匠の強さによるものなのか、それとも異性に対してなのか、当時の私にはまだはわからない。


 グレン師匠は困った顔をしていたが、お礼を兼ねてとしばらく城に滞在してもらうことになる。

 元々彼も「フォルセア王国に用事があって来た」と言っていたので、渋々だが了承してくれた。

 後で知ることになるが、亡き勇者の墓参りに来るため通りかかったようだ。


 私は今のうちにと、母上にある『おねだり』をすることにする。

 母クラリスは「まぁ素敵じゃない」と快く引き受けてくれた。


 それから間もなくして、父ロイドが反省室から解放される。

 父上もグレン師匠に感謝しつつ、何やら因縁があるらしく気難しい顔をしていた。

 

 私と母上から、父ロイドにある提案を申し込む。


「――はぁ? いや婚約破棄の件は承諾したけど、それは流石に……あれだ。騎士になりたいのなら、別の者で良いのではないか?」


「駄目よ、パパ! 今回の件もあるでしょ! またアムが狙われたらどうするの!? 今の時代、お姫様だって戦う時代よ! セイリアだってそうだったじゃない! それにアムは彼から直接手ほどきを受けたいの、ね?」


 母上の強引な問いに、私は「はい、お母様!」と素直に頷く。

 こういう場面の母は非常に頼もしい。


 基本は母上に頭が上がらない、父ロイドは渋々に頷いた。


「わかったよ、ママ……その代わり、もう許してね」


 かくして再び、グレン師匠が呼び出された。



「――っというわけだ、グレンよ。我が娘アムティアに武道の手ほどきをしてくれぬか?」


「どういうわけか謎なのですが、ロイド陛下?」


「だから竜戦士としての腕を見込んで頼んでいる。どうせすることないだろ? 定期的でいいから教えて来てほしい。無論、謝礼金と指南役としての地位を与えよう」


「……わかりました。定期的でよければご指導いたしましょう」


 グレン師匠は引き受けて下さり、私は晴れて弟子となったというわけだ。



「それじゃアムティア様、よろしくお願いします」


「アムで良いです。お母様にそう呼ばれておりますので。あと敬語も不要です……グレン師匠」


「わかったよ、アム。俺が知る剣術から戦闘術に至る教えられるところは全て教えていくけど極められるかは、あくまでキミ次第だ。頑張れるか?」


「はい、師匠! 全力で精進いたします!」


 少しでもいい……。

 私はこの方に認めてもらいたいという思いで、必死に努力しようと心に誓うのだった。



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