第59話 竜戦士との出会い
アムティアside
元々私には幼い頃から婚約者がいた。
言っておくがイクトではないぞ。
されは父上が奴の妙なテンションと勢いに押され了承しただけだ。
最初から私にはその気など一切なかったからな。
それは生まれた時から決められた許嫁。
顔も見たことのない強国の第一王子だと聞く。
俗にいう政略結婚というべきか。
当時の私は5歳。
相手の王子は17歳と年齢が離れているが、王族同士では別に支障はない。
私はただ結婚の意味すらわからず受け入れるのみだ。
ある日、先方の婚約者が私に会いたいと言い出してきた。
その頃はまだフォルセア王国にも魔王軍の残党が潜んでおり、商人達ですら腕利きの冒険者の護衛が必要だった時期だ。
母クラリスが猛反対する中、先方の婚約者側の半ば強引な要請もあり、父の命令で赴くことになる。
私は侍女達と馬車に乗り、周囲には護衛の騎士達で固められた。
しかし案の定、魔王軍の残党が襲い掛ってくる。
魔物兵は殲滅することができたが、統率するリーダーの魔族がとにかく強く、あっという間に騎士達が斃されてしまった。
「ロイド王の末娘……情報通りだ。これは良い交渉材料になる。上手くいけば、フォルセアも落とせましょう」
この魔族の男、どうやら私のことを知っていて襲ってきたようだ。
父上の方では密会として外部には一切の口外を控えていたが、相手側の国では大々的に触れ回っていたらしい。
今思えばなんと間抜けな話だろう。
「姫様、どうかお逃げください!」
「ここは私達が!」
「黙りなさい。王女以外の女は全員食料です……ん!?」
魔族が侍女達に襲い掛かろうとした時、奴は何故か踏み止まる。
すると何者かが近づいてきた。
「――魔族が白昼堂々と何をやっている」
侍女に守られ抱えられながら、私はその方の姿を見据える。
すらりと背が高く、長い黒髪を靡かせた冒険者風の男性。
当時のグレン師匠。
この頃は25歳くらいだろうか。
今より若いが風貌はほぼ変わらない。
いや今も大人の渋みが出て……そのぅ益々魅力的だ。
「……貴方、只者ではないですね? (まるで気配を感じなかった)」
「只者だよ。見ての通り、ソロの雑用係だ」
グレン師匠は自ら背負っている大きなリュックサックに親指を差す。
紳士ぶっていた魔族の形相が醜く歪む。
「嘘をおっしゃい。魔力こそ感じませんが、貴方には死臭が匂います……今まで、どれだけの同胞を殺してきたのです?」
「随分と鼻が利くんだな。生憎、5年前の話だ……今じゃ満足に剣すら振れない」
当時のグレン師匠は戦士としての装備は一切してなかったと思う。
せいぜい護身用のナイフと野営用の山刀を腰に刺していたくらいだろうか。
だが魔族はグレン師匠から溢れる圧を感じていたのか、険しい表情を崩さない。
私から見ても相当警戒している様子が伺える。
グレン師匠は背中のリュックを地面に降ろした。
「……退けよ。俺も余計な戦いは本意じゃない。幼い姫さんのことは諦めろ」
「ぐっ……なんなんだ、貴様! この私がぁ、この私が貴様如きにぃぃぃぃ!!!」
魔族の男は半狂乱となり、グレン師匠に襲い掛かる。
謎の圧に思考が麻痺し獰猛な本性をさらけ出したのだろうか。
――コォォォォォ!
同時にグレン師匠は唸るような独特の呼吸をしてみせる。
気がつけば、既にその場から姿を消していた。
斬ッ
瞬間、魔族の首が宙に舞う。
グレン師匠は山刀を抜き奴の首を跳ね飛ばしたのだ。
「――【竜式戦闘術】
「ガッ……今のは竜気? まさか貴様は――」
首だけとなった魔族の男は漆黒色に染まり崩れて散りとなった。
切り離された胴体も同様あり、その場には魔族の証である両角のみが残されている。
「……ぐぅ、がぁぁぁぁぁぁ!!!」
突如、グレン師匠は蹲り激しい痛みに襲われている。
皮膚全体に黒い血管が太く浮き出ていることから、《
てっきり魔族の攻撃を受けたと思った私と侍女達が苦しむ師匠へと駆け寄った。
「もし冒険者様、大丈夫ですか?」
「も、問題ない……時期に痛みは治まる。放っておいてくれ」
グレン師匠はそう言うも放っておけるわけもなく、魔法の心得がある侍女が城へと知らせる。
数刻後には別の騎士達が迎えにきて、私は無事に保護された。
その頃にはグレン師匠の痛みは消失していたが、「姫を助けてくれたお礼がしたい」と騎士達に言われ半ば強引に王城へ招き入れる。
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