第58話 アムティアの密かな想い
アムティアside
すると借金取りのルカが私と目を合わせてくる。
「おっと、これはアムティア王女。ロイド陛下から『グレンに手籠めにされてないかなぁ?』と心配されておりましたでぇ」
「余計な世話だと伝えてほしい。あと師匠に無礼を働くのなら、私とて怒りますぞと警告つきでお願いします」
父ロイドはグレン師匠を認め敬いつつも、同時に毛嫌いしている。
理由は母クラリスが師匠を熱烈な推しにしているヤキモチからだ。
あと第二王女であったセイリア姉上や、他の姉上達も師匠を気に入っている。
無理はない……グレン師匠はそれだけ魅力的な方だ。
然も言う私とて……。
「ははは、姫騎士様のお頼みとてウチからは言えへん内容やわ~。それより今週分、きっちり払ってーな」
「今週分だと? まさか毎週取り立てに来るつもりか?」
「せや、それがウチの任務やさかい。あんさんらの借金完済するまで地の果てだろうと追って来ますでぇ、へへへ」
見た目は愛くるしい幼女の癖に、醜悪そうに顔を歪めいやらしい笑みを浮かべている。
次第にムカついてきた。
「……わかったよ。そういう約束だしな」
グレン師匠は雑用係用の大型リュックから路銀の一部を手渡す。
約10万G、前回の鉱山で魔物を狩った報酬分の一部だ。
「……ほんまこれだけでっか?」
「おいおい勘弁してくれ。こっちだって魔王討伐任務があるんだ。勇者パーティと違って援助を受けられない以上、ある程度の資金を残す必要があるだろ?」
「噂じゃ、グレンはん……魔族を斃したとちゃいまっか? なんでも魔王軍の幹部ちゅう話やないの?」
「ぐっ……誰からそれを……」
「
「すまん、エアル姉さんの魔法強化としてあげたんだ」
「もう使っちゃったから100Gも値打ちないわよ」
エアルウェンは水色髪をかき上げ大人の余裕を見せる。
しかしルカは舐めるような眼差しで彼女の体を見入っていた。
「まぁパーティが弱すぎて死なれても本末転倒……それに同じ妖精族のよしみや。理解しときますぅ」
「あら、そう。ありがと」
「けど、あんさん……エルフとは思えないほど、ええ乳しとりますなぁ。それほど豊満ならクエスト以外にも借金返済する方法があるんとちゃいますぅ?」
「おい! 人が下手に出てりゃいい加減にしろ! エアル姉さんへの侮辱は俺が許さんぞ!」
グレン師匠は怒鳴り、キッとルカを睨みつける。
ご自分のことでは滅多に怒ることはないが、仲間がけなされると黙っていられない。
まさに紳士、あるいは大人の風格。
だからこそ魅力的であり、皆からの人望も厚い。
しかしルカも相当な修羅場を潜っているのか動じない。
ひたすら「へへへ」と薄笑いを浮かべている。
「グレンはんやないけど、少し調子に乗りすぎましたわ。あんさん方とは長い付き合いになりそうやから、今回は10万Gで引き下がりますぅ。ほな、また来週――」
ルカはバックステップで荷台から飛び降り、同じ速度でついて来ているホウジロウに飛び移って去っていった。
う、うむ……イラっとするリトルフ族だが、父上に見込まれるだけあり相当な手練れであるのは確かのようだ。
「……あいつムカつく。グレン、やっちゃえば良かったのに」
「リフィナ、そうもいかないよ。借金取りはああして煽るのが仕事なんだ。返済者に自覚と意識させるためにね……基本、舐められるわけにはいかない職業なんだよ。あの方言や訛り口調も、案外ワザとかもしれない」
やたらとルカに理解を示す、グレン師匠。
本当に感心させられるお方だ……。
「ところで今のちびっ子は何しに来たニャ?」
パルシャだけが意味がかわらず一人で首を傾げている。
傍でずっと聞いていたにもかかわらず、ルカが借金取りのリトルフ族ということすら気づいてないようだ。
11歳のリフィナさえ理解しているのにな……これぞ残念娘というやつか。
「まぁ、パルシャは知らなくていい内容だよ。目的地のワネイア王国までは、まだまだ遠い……なんだったら途中の村や町でクエストを請け負っても良いだろう。また来週、取り立てに来るらしいからな」
グレン師匠の言葉に、我らは従順に頷く。
やはりこの方がおられるからこそ、我ら竜撃パーティが成立する。
私でなくても、仲間の誰もがそう思っているだろう。
だからこそ嬉しい……。
グレン師匠とこうして長く一緒に行動できるのは、あの日以来なのだから――。
―――――――――――
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