第56話 この異世界はクソゲーだわ


イクトside



「わしゃ、センゾー。ただの武闘僧侶モンクじゃ」


「文句? 何かに不満があるんですか?」


「……ちがーう。武闘僧侶モンクとは、刃物を持つことを禁止された聖職者が素手で相手を打ち倒す武道に長けた職種のことじゃ。ちなみに年齢78歳じゃ」


 年齢まで聞いてないけど、78歳であの動きは脅威的だ。

 ましてや武器を持った相手に素手で戦えるんだからな。

 

 それに最後に見せた技……以前、グレン兄ぃに殴られた拳撃に似ているような気がするぞ。


「サイゾーさん。最後に山賊に放った技ってなんですか?」


「ん? 『魔発勁マハッケイ』のことか? 体内で魔力を練り上げ、そのまま相手に叩きつける打撃法じゃ。元は竜人族が使うとする【竜式戦闘術】が源流とされ、『竜気』が練られん人族向けに改良された簡易版と言える技じゃ」


「体内で魔力を練り上げる……魔法じゃないの?」


「魔法ではない、武術じゃ。わしゃ魔法ってのを反対アンチしておる、言わばアンチ僧じゃ。だから魔法に頼らずとも世界最強の守護者と称えられる竜戦士に憧れておるのじゃ」


 アンチ僧って何よ? 破戒僧的なやつか?

 そういやグレン兄ぃも竜戦士とか言ってたっけ……どうでもいいや。


 てことはだ。


「魔法でなければ、僕でも打てるようになるかな?」


「知らん。わしでさえ極めるのに20年の歳月を要しておる。まずは体内で循環する相応の魔力エネルギーが必須じゃ」


 相応の魔力エネルギー? それなら問題ないぞ。

 僕には《無尽蔵超魔力インイグゾースティブル》がある。

 魔力を高めるだけなら無限大だ。


 あれ? てことは僕って適正あるんじゃね?


「ねぇサイゾーさん。『魔発勁マハッケイ』って技、僕に教えてくれない? お礼はするからさぁ」


「だから一朝一夕で身に着けられる技法ではないぞい。まぁどうしても興味があるのなら、『ジズザン共和国』に来い。わしゃそこで他のアンチ僧と布教活動を行っておる。同じ服を着た奴に、わしの名前を言えば居場所を教えてくれるじゃろう」


「わかった。用事を果たしてから尋ねるとするよ」


 僕の返答に、サンゾーは何故かじぃと見つめてくる。

 老人にガン見されても、ちっともトキめかないや。


「イキトと言ったな……不思議な男じゃのぅ。悪でなければ善でもない……だが不思議なことに、大した強くないのに謎の自信で満ち溢れておる。お前さんなら案外……」


「案外、何?」


「いや何でもない。それではな……待っておるぞ」


 サンゾーは「ひょひょ~」と飛び跳ねながら、再び茂みの中へと入り姿を消してしまった。

 まったく謎の爺さんだ。


「けど異世界に来て初めて有能そうなサポートキャラに会えたぞ。でも主人公が必死で努力したら負けた気分になるから、『なんちゃらに比べれば遊びレベルだな~』と余裕ぶってやらないとな……」


 僕はそう考えながら、道端で気を失っている山賊達の身ぐるみを剥ぎ貴重品を奪った。

 どうせ誰かから強奪したモノだろうしお互い様だろう。




 こうして村を点々とし二週間かけてブンスカ王国に訪れた僕は、真っ先に道具屋に行き身に着けていた兵士の鎧と剣を売る。

 さらに盗賊から奪った金品を上乗せして、もうワンランク上の装備を購入して装備した。


 その後、冒険者ギルドに行き冒険者となるため手続きする。

 手続き自体は超アバウトなので、特に身元を調べられることなくすんなり登録できた。


 ギルドカードに記された名前は、偽名のイキト。

 最下位の七級冒険者だ。


 正直、納得してない。

 いや超不満を抱いている。

 別に冒険者として等級が低いってことじゃないさ。


 ――テンプレの『魔力測定器』が無かったことだ。


 頭にきたので、カウンタ―で対応した受付嬢に食って掛かる。


「……ねぇ、受付嬢のお姉さん。魔力測定する水晶玉とかないの? 僕のステータスとか調べないわけ? 冒険者の能力とかわからないで、どうやってクエストとか振れるのよ? それってガバガバ設定じゃね?」


「魔力測定? ステータス? ガバガバ設定? 申し訳ありませんが、ギルドでは達成した実績で冒険者が評価されます。余程のレア職種でない限り、登録した最初は誰でも七級ですよ」


 難色を示しながら答えてきた。


 僕はただ魔力測定機の水晶をブッ壊し、「嘘っ、凄すぎ!?」とか受付嬢が驚いてくれるアレがしただけなのに……てか、できねーの?


 う、嘘だろ……。


 やっぱこの異世界はクソゲーだわ。



―――――――――――


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