第55話 お前ら絶対ぇ童貞だろ


イクトside



「あ~あ、イキリたいなぁ~」


 僕はイクト。

 勇者をクビにさせられ、現在も死亡説が流れている放浪者さ。


 あの後、『疾風鎌カマイタチのハイマー』という魔王軍の魔族に襲われてから約二週間ほど経過している。


 ようやく辿り着いた辺境地、ブンスカ王国の王都内にいた。


 正直ここまでの道中は大変だったね、いやマジで。

 初っ端で魔物に襲われ馬に逃げられてしまうわ、また山賊に襲われるわで散々だった。


 僕はもう魔法が封じられ使えないので、身を守るため兵士から奪った剣で戦うことにする。

 剣は元婚約者だった姫騎士アムティアから指導を受けていたが、ぶっちゃけ彼女の揺れるおっぱいしか見てなかったので、大した実力は身についていないと自負しよう。


 そもそも僕は剣が好きじゃなかった。

 これまで《恩寵能力チート》で瞬殺してきただけに気乗りしない。

 やっぱ魔法攻撃によるオーバーキルが最も爽快感があってウケると思っている。

 ノンストレス最高ってやつ?


 そうして魔物はなんとか斃すことができた。

 いやお前、練習サボっていた癖になんか強くてズルくねって?


 まぁ相手は普通のウサギに角が生えた弱そうな奴だったしね。

 あと子供サイズの犬人間(コボルト)が数匹かな。こいつは小剣を持っていたけど攻撃力は低く、元の世界で父さんが飼っていたハスキー犬の方が遥かに強かったと思う。


 そいつらを斃した経験値で新しいスキルが獲得できるかと思ったけど、そこはクソゲー世界だ。

 何も手に入らないし、ただの死体だけでお金にもなりゃしない。


 けど山賊に襲われた時はガチで死ぬかと思った。

 連中、四人くらいはいておまけに武装もしてやがる。

 どいつも前の世界にいた、クラスにいたオタクや陰キャみたいな顔に似て、つい「プッ」って噴き出しちゃったけどね。


 それが余計に悪かった。

 先程まで「へへへ、金目の物を置いときな」とか、ニヤついていた山賊達をブチギレさせてしまう。

 

「おい糞ガキ、何が可笑しいんだ!?」


「いや、お前ら絶対ぇ童貞だろ? 女の子にモテなさそうな顔だもん」


「うっせー! 童貞じゃねぇ! テメェ殺す!」


 四人共、殺意を滾らせ僕に斬り掛かってくる。

 流石にこりゃヤバイと思って食料と金目の物を置いて逃げようかと思った。


 その時だ。


「うるさいのぅ……呑気に昼寝も出来んわい」


 道端の茂みから一人の老人がひょいと現れる。

 

 随分と小柄な爺さんだ。

 使い古されたようなカンフー服に似た衣装を纏い、やたらと眉毛と口髭が長く生えている。

 身体つきも枯れ木のように細く、しわくちゃな容貌といい一瞬魔物かと思った。


 しかし突然の出現で山賊達の動きが停まる。


「んだぁ、ジジィ!? テメェは何もんだ!?」


「童貞に名乗る名などないわい。強いて言えば通りすがりのお節介じゃ」


「童貞じゃねぇって言っているだろうが! 何なんだ、しつこいぞ!」


「てか通りすがりって……ジジィ、テメェは呑気に昼寝も出来ねぇとか言ってただろうが! 平気で嘘つくんじゃねぇ!」


 山賊達の指摘に老人は「ほーかい(鼻ホジ)」と遠い目でどうでも良さそうな態度を見せている。

 勿論、連中は再びブチギレて「ジジィ、ブッ殺す!」と標的を老人にシフトチェンジした。


 僕はチャンスだと思い、少しずつ後退りする。

 老人が襲われるのを見計らい、Bダッシュ連打並みに全力疾走で逃げてやろうと考えた。


 が、


「はいやッ!」


「ブホッ!」


 老人はあっという間に四人の山賊達を倒した。

 しかも素手だ。


 まるでカンフー映画のような素早く軽快な動き。

 さらに強烈な蹴り技で山賊共を軽々と吹き飛ばしている。


 そして最も驚愕したのは、老人が山賊の腹部に掌を当て「ハッ!」とか言って一瞬で倒した技だ。

 山賊は白目を向き口から反吐ヘドを噴出しながら気を失った。


「ふぅ、今日もいい天気じゃわい」


 老人は賢者タイムに入ったかの如く遠い空を見上げている。

 何この爺さん……何者なんだ?


「あ、あの、ありがとうございます」


 結果的に助けられた僕は一応礼を言う。


「構わんよ。昼寝の邪魔されてちぃっとムカついただけじゃ」


「僕、イキト・ ・ ・と言います。おじいさんは?」


 僕はあえて異なる名を使う。

 魔族ハイマーと遭遇した際に、つい名乗ってしまった偽名だ。



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